飛ぶ夢

夢の中では、飛ぶことができる、飛んでいる夢を見ることは多い、と義兄は言う。いつもの道を、歩いているのではなく飛んでいる。地面からわずかに浮いた程度の高さを滑空しているような感じだ。

気を抜いたり油断したりすると、地面に落ちてしまう。ある一定の力を込めるというか、飛んでいる状態を維持するための力の加えどころというか、気の留めどころのような部分を意識にしっかりと留めていれば、わりと難なく飛び続けていられる。

義兄の言うその「コツ」の感覚は、僕にもよくわかるのだ。僕も夢ではやはり同じように飛んでいる、そのときの感じ。少し下腹部あたりに力を込めて、両足を後ろへ伸ばして、空気の流れに身体全部を預けてしまう感じだ。

夢で飛んだ経験のある人なら、誰もが知る感覚なのではないか、その可能性もある。はじめて自転車に乗れたときと同じく、一度出来るようになってしまうと、むしろ出来なかったときの感覚を取り戻せなくなるような感じにも近い。

僕の場合はそれこそ自転車で、ペダルは固定してブレーキにも手をかけずに、長い下り坂をいつまでも走りぬけていくときと同じように、腹ばいの姿勢で頭は前方を見上げて、音もなく滑空していくのだ。飛行速度は自動車よりも速いくらいだ。いや、ものすごく速い、本物の飛行機くらいのスピードが出る、と義兄は言う。

妻は、私は一度も、そんな夢を見たことがないと言う。

義母は、私は高いビルの屋上からその隣のビルまで、ぴょーんって一ッ飛びにジャンプして飛び移っていく夢を見ることがあるのよと言う。ちなみに義母は我が母よりも年上のはずだ。とはいえまだ八十歳にはならないと思うが。