遠く

今の僕が47歳で、こうして一人で、電車で通勤している。それがふと離人的に、意識が浮き上がって、気付いたら僕が自らを見下ろしている。47歳というが、自分ではその年齢の意味がわからないものだ。時間が流れても、とくに変わったことはないし、流れていく窓の外の景色も、昔見たのとさほど変わらないと言えばそのとおりだ。だとしたら、こうしてぼんやりとしているのは、僕なのか、ほかの誰かわからない、自分のようでもあり、父親のようでもある。僕は子供がいないが、父親には子供がいた。それが僕だ。父親が僕の手を引いて電車に乗っていた。僕はまだ小学生ではないか、だとすると父親は、あのときまだ、三十代後半だろうか、僕を見下ろしている、一言か二言、何か言われた、そのあと父が視線を逸らして、車内を見回して、ふと窓の外を見て、放心したような顔で、しばらく遠くを見ている、僕はその顔を見上げている。