靴を磨く

土曜日になったら、絶対に靴を磨くつもりだから、でもきっと忘れるから、土曜日になったらそう言ってください、靴磨け!って僕に言って。と数日前に妻にお願いしておいたのだった。今日になって、靴磨けば?と言われて、強い衝撃を受ける。えー!なんでわざわざ今日そんなことを!せっかくの休日だというのに!!死ぬほど面倒くさい!!…と思って身悶えするような思いに駆られたが、元は自分のまいた種であり仕方がない。自室の床に古新聞を敷いてその上に靴磨き道具と共に靴を並べようとするが、はて家には古新聞などというものが未だあるのだろうかと思い、かつて新聞を積み重ねていた箇所を探ってみたら、まだ少し残存していた。取り出して日付を見ると、2017年3月とある。ちょうどその頃に購読をやめたのではなかっただろうか。やれ懐かしいじゃないか、用事のために古新聞を引っ張り出してきて、ついそれを読みふけってしまいました、というのは古典的なあるあるネタだよね、などと思いながら適当に読んでみたけど、どの記事も驚くほど全然面白くなかったので、早々に床の敷物にした。

靴磨きというのはけっこう重労働だし手は靴クリームに染まるし、なかなかしんどいのだが、自分の普段履いている靴を目の高さでしげしげとみつめて、汚れや傷を一々気にして、ブラシだの布だので細やかにケアしてあげるというのは、それなりに面白いところもあるというか、自分の身体の一部を取り外してメンテナンスしているような感じもあるし、表面に油脂がしみ込んで鈍い光沢が出始めるのを見ているのは、ある種の模型制作的な愉悦感があるというか、それなりに楽しいことではある。だから始めれば一応きちんとやるのだけど、始めるまでに乗り越えなきゃいけない壁が高いのだ。これでもここ最近は真面目にやってる方だ。昔は一切、メンテナンスなんてしなくて平然と履きつぶしていた。今から考えれば勿体なかった。もっと大事にしてあげれば良かった靴がたくさんある。

その後、買い物して帰ってきただけ。早咲きの桜が一本だけ鮮やかな紅色を満開にさせていた。