Case of You

"Case of You"は、"あなたの場合"という意味ではなくて、"あなた一ケース分"か。ジョニ・ミッチェルは、さすがに「あなたに夢中な私」の姿を、そのままさらけ出すようなことはしなくて、ちょっと気取ってるというか、ちょっとカッコ付けた風の言葉になっている。基本は「あなたに夢中な私」なのだが、それへの自嘲というか、やれやれのため息感が含まれていて、少し大人の世界な感じである。とはいえ"Case of You"という言い方は、けっこうかわいい。かわいいけど、酒飲み的な感じ(なんでも酒に例える感じ)が、ややオヤジくさいとも感じられるのだが、まあジョニ・ミッチェルに酒の歌は多い。いや、これは酒に例えたというより目方の問題で、そういえばブルースにSpoonfulという曲があったではないか。"It Could be Spoonful of Coffee"に対して、"I could drink a case of you"か。目方を量るにあたって、1ケース分とかスプーン一匙分とか、ブルースの歌詞にそういうのは多い気はする。何年何月何日に誰がどうしたとか、何十回目の何とかだとか、ほとんど何の根拠でもなく、何の説明にもならないことはわかっているのに、無駄な数字をごちゃごちゃ並べて歌うという往年のスタイルへの踏襲が、ここにはあるのかもしれない。まあいずれにせよ、絶対にうまく行かないことがわかっている相手に対して、それだからこそどこまでも想いが駆け巡ってしまって、思わず数えても無駄な数字を数えたくもなるのだということか。