バトル・オブ・ザ・セクシーズ

バトル・オブ・ザ・セクシーズ」(ジョナサン・デイトン/ヴァレリー・ファリス)をDVDで観る。面白かった。家で二人でペラペラ喋りながら観る映画としては最高に楽しめた。1972年アメリカのテニス業界における実話を元にしているらしいというのを観始めてはじめて知ったのだが、まず70年代の西海岸の雰囲気も主人公が所属している女性団体的なメンバー構成も「如何にも!」という感じで観ていて楽しく、さらに主演のエマ・ストーン、これまで数本の作品で観たことあるけど「この女優、本当にすごいんだな」と驚かされるほど本作は素晴らしかった。ちなみに観終わると邦題の"セクシーズ"のニュアンスにやや違和感を感じる。sexの複数形でsexes、battle of sexesである。複数の性、その闘い、本当にそのような映画だった。

 

事前の知識をまるで持たずに観たのだが、当時で言えばウーマン・リブか、いわゆるフェミニズム的な考えを強く推し進めたい女子テニス選手たちの一派があって、旧来の保守的で男性優位的な考えを変えようとしない(優勝賞金などが男女で露骨に違うなど)プロテニス団体だか委員会だかと激しく対立している。しかし女たちも一枚岩ではなくてここに性的アイデンティティの問題が入ってくる。要するに男女平等問題と見せかけて、LGBTQ問題の作品なのだ。いや"問題"というよりも、元々既婚者であるエマ・ストーンが美容師の女に髪を切られながら、その相手に強く魅了されてしまう場面が序盤で出てくるのだが、この場面がじつに官能的というか、恋愛のはじまりの瞬間の繊細さが瑞々しくて、そのエマ・ストーンが素晴らしくて、あ!こんな映画なのか?とびっくりする反面、最初から感動させられる。しかしそんな「恋人」を作ってしまうエマ・ストーンをこころよく思わない(夫と子供がいる)メンバーもいたり、組織運営を最優先で考えたいマネージメント女史もいたり、ものすごくオシャレなコスチュームデザイナーのゲイ風オジサンがいたりと、まるで一枚岩とは言えない女性側の状況が描かれる。

 

男性側も事態は単純ではなくて、既得権益をしっかり守りたいおじさん達は単純ではあるのだが、そのような対立構造を利用して、あえて男女の対決を演出する炎上商法ショーみたいなのを企画してこれを自分のビジネスとして上手くやってやろうとたくらむ、かつては一流のプレイヤーだったがすでに五十代半ばで一線を退いて今や半ば芸人みたいになっている男が出てくる。この男が異様に軽薄で派手好きで困った感じなのだが、次第にその内側にかかえている問題やら何やらが見えてきて、話が進むにつれてこの人物の陰影もじょじょに複雑になっていく、単純な悪役ではなく、彼も彼自身の「バトル」を闘ってきて、今も闘争の只中にいることが、少しずつあらわになってくる。

 

で、クライマックスに「世紀の対決」みたいなものすごいショー演出の元で男女テニスタイトルマッチが繰り広げられて、試合のシーンはテレビ中継を見てるみたいな抑えた演出で、そして最後は、、と…まあ、単純に面白いし、試合終了後もじつにいい感じ。最後にエマ・ストーンがベンチに座って一人泣くシーンがあり、その表情や前後の流れからでは涙の理由が、必ずしもはっきりとはわからないのだが、そこがかえってすごく味わい深いというか、おお、エマ・ストーンの演技、ほんとうに素晴らしいなと、あらためて感じ入ってしまった。