稲妻

これを残暑と呼んで良いのかどうなのか知らないけど、朝から心身の気力を根こそぎ持っていかれる。

 

僕の苗字を音読すると「か」が何度も連続して、発音に心地よさがないというか、やたらカクカクとした印象を受けるのだが、結婚して妻の姓が僕の姓に変わったとき、妻の名前は頭文字が"E"なので、姓~名と続けて読むと、僕の苗字の影響というか組み合わせの違和感はさほどなかったのだが、もしこれが、たとえば「K」からはじまる名前の女性だったりすると、僕の苗字とはおそろしく相性が悪くて、たとえば「かず子」さんと僕が結婚して「かず子」さんの姓が変わってぼくの姓になったら、それこそ「か」が何度も続いて、ことに苗字の最後と名前の最初で「かか」と続くところとかが最悪で、それだけで「かず子」さんから結婚を躊躇されるかもしれない。

 

夜になって、横浜は激しい雷雨。これほど何度も稲妻が夜を照らすなんて、めずらしい。あたたかい空気とつめたい空気が摩擦して放電される。空の彼方で。テレビで見たことがあるけど、飛行機に乗って、窓の外で、遠くの空が光っているのが見えることもあるだろう。そんな場所を想像するのはおそろしい。深海のような無人の場所が怖い。

 

鉄道は混雑が酷かったけれども、ひしめきあう乗客は皆おおむねぼんやりとした顔をして空を見上げているか、うつろな表情でどこともない何かを見ている。もしかして誰もが軽く、低気圧にやられていたのか。

 

あなたがいなくなったら、僕はずいぶん寂しい、まるで飼っていたペットが死んでしまったみたいに寂しいはず。「だったら私は、犬と猫のどちらでしょうか?」そんな質問は、あなたが求める答えを僕は知っているので、僕は答えるのがつまらない。