Identity V (Short)

子供が小さな手で、ゲームアプリを起動してメニューボタンを叩くように連打してゲームをスタートさせるときの早さと手さばきの鮮やかさ。君はきっと今、何を措いてもまっさきにそれをしたいから、あらかじめ身体が、それをするために最適化されてしまってる、それをするときの脳からの指示や、神経の伝達スピードが常に最速になるように、すでに自分をいじくって調整した後なんだろうな。画面上で、後姿を見せて歩くキャラクターを見つめながら、今ここで暗号解除しました。暗号キーをこうして集めていきます。で、今追いかけられたから、私が逃げたんです、これが仲間で、このときは助けられなかったんです、と説明するときの口ぶり。急いだように、声が弾んでいる。二十七歳でしょ?ふだんの君の感じと、今と全然違うじゃん、夢中でもなく、嬉しそうでもなく、画面から目を離さずに、面白いゲームの説明をしてくれてる、早口で喋ってる子供の口調そのもの、一般的に云って、その年頃の子って、誰もがこんな感じだったろうか。そんな要素を、少しでも持ってるものだったろうか。ほんの数年前まで子供だった人とすれちがったかのような香りがただよう。