ジョーカー・ひめごと

MOVIX亀有でトッド・フィリップス「ジョーカー」を観る。が、これは失敗した。べつに期待していた訳では全然ないのだが、しかしそれにしても予想をはるかに下回り、自分にはまるでつまらなかった。せっかくの休日に、これを観ているという状況を後悔した。途中で退場したかったのだが座席列の端にも客がいて、前を横切るのも悪いと思って仕方なく最後まで観た。…なんか妙に昨今の世間っぽさにおもねって、情緒的に肯定か否定かを迫るだけみたいな態度でイヤな感じの作品で、しかし昔はつまらないと思ったら作品や作り手に対して怒りとか嫌悪を感じたりもしたが、最近はそういう感情も薄くなって、単に自分が選択を誤った、観に来たやつがバカなのだ…とか、思うくらいになってしまったかもしれない。けして良いことではないが。


帰宅して、DMM.COMの動画配信にて堀禎一夏の娘たち ひめごと」を観る。75分くらいの作品で、立ち上がりから中盤にかけて、とてもあっさりと淡々と端正にことが運んでいくので、一瞬不安をおぼえる。最近観てる映画がみんな雑駁すぎて(自分が雑すぎて)、もしかしたら今観ているこの作品の独特の質感を捉えそこなっているのではないかという不安。

どんな映画だったか?それを書くのは非常に難しい。もう先が長くない父と、病院を見舞う母と長女と長男、そして看護師の養女。養女と長男は惹かれあっていて、結婚を考えている。養女の母は旅館で働いている。養女は父親が誰かを知らない。長男はやさしい男だが、やさしいだけでは…と迷っている。しかし夜になれば人影のない無人の小屋で抱き合う。

父が亡くなった葬儀の夜、葬儀の参列者が集まる。先日旅館に泊まった男はもともとこの町出身で、その幼少時代を母親も養女の母もおぼえていた。なつかしさに思わず嬌声があがる。

誰かと誰かが近づいたり離れたりすることと、死んだらまた生まれてくることが、同価値として観察されているような、とても不思議な視点から見つめられている世界だ。転生的というか深沢七郎笛吹川的なイメージを思い浮かべたりもした。最初の方の場面で、養女と長男は15歳とか13歳ではじめて関係をもったときから"中出し"していて、なぜ妊娠しなかったのかと長男が問えば「後で、沢でよく洗ったから」と養女はこたえる。その沢で、養女、長女と長男、旅館男、長男の友人、それに友人が通う店の子も来て、水着姿で、笑いながら、水に足をとられてよろけながら、水の流れに身体を横たえながら遊ぶ。

養女は長男との結婚を決意すると、心臓が悪い養女の母は軽い発作で倒れる、やがて持ち直す。店の子は妊娠したと告げる。それを聞いて養女はショックを受ける。店の子は、妊娠は嘘だと言う。母親がまた倒れる。手を差し伸べると、その手を払って母親は起き上がる。発作は嘘だったのか。

養女は長男と結婚しないことを決める。やがて旅館男と関係をもつ。長男は怒り、考え直すよう諭すが養女は聞かない。結婚式の前夜、長男が自殺したことを知り、花嫁衣裳の養女は泣く。式に出席する皆が集まる。店の子は妊娠している。誰の子供なのかはわからない。

養女の母役の速水今日子がとても良かった。何が良いのか説明が難しいのだが、とにかくたいへん良かった。