期待過去

季節柄、午後三時を過ぎると光がすでに西日の色合いを深める。公園にも路肩の並木も、今年は紅葉の色付きがまるで中途半端で、色付く前に落葉がはじまってしまった感じがある。おそらく台風や秋以降の気温変化のせいではないかと思うが、なにかみずぼらしく寒々とした景色が、やけに目に付く。橋の上から見下ろす川の流れはいつものままで、冬の空気は濁りなく透き通っているので、見つめる先の遠くの景色にまで厳しくピントが合っていて、冷たい空を背景にしてビル、鉄橋、街並みの線と色面の集合が揺らぎも瞬きもせずに静かに映し出されている。

古ぼけたアパートの前に立って、以前住んでいた部屋を見上げる。今は、別の誰かが住んでいるのか、それとも長らく空き部屋なのか、外から見上げてもよくわからないのだが、もう十三年も経つのに、まだあの部屋が存在していることはたしかだ。不審者っぽいのでやや気後れしつつ、あたりを見回して、裏手にまわって、ぐるりと一巡して、また周囲の景色を見渡して、これらの雰囲気が、かつての自分らにとって当たり前に見慣れた、生活の風景そのものだった、それが過去の現実であったことが今では信じられない、しかし、その違和感を味わうことを予想してここに来ている。信じられないと思いながらも、その感覚自体は、信じているんだなと思う。