コート

薄手の黒いコートを買ったのが1998年の秋頃、就職する直前か直後だったのをなぜか今でもよくおぼえている。そしてそのコートを今もまだ着ている。二十年以上の年月を着用していることになるが、たしか十年前に一度修繕をしている。袖口がボロボロになり、黒色の生地が破れて、中の白っぽい内生地が露出して、かなり目立ち如何にもみすぼらしい状態になったので、袖自体を1センチくらい切り詰めたのだった。で、そこからさらに十年が経過したわけだが、今の状態がどうかといえば、もはや手の施しようがないほどひどい。袖はもとより、ポケットの口、前裾の先端など、隠しきれないほどのほつれと破れに見舞われている。まともな感覚なら、これほどボロボロになったコートを着用するのはためらわれるだろうが、僕は着ている。じつはアクリル絵の具の黒(ランプ・ブラック)を筆にふくませ、破れ目の生地に丹念に塗り込み黒く染めてあるのだ。これで遠目には、わりと老朽感が誤魔化せている。もう少し寒さが厳しくなるまでは、このまま着続けてしまおうと思っている。

…しかし、何でもかんでも「描いて」誤魔化して人の目を欺くと云うのは、それがかりに芸術家の手法であるなら、手筋の悪いタイプと言えるだろう。本来なら「描かない」を尊重すべきだし、そもそも誤魔化す手段として描いてる時点でダメだ。(若いときほど、手数でなんとかしようとする。手数で成果を出すのはごまかしているだけで、本質を突いてない可能性が高い。)