入谷

有給取得日、一人で昼食へ。家を出て見上げれば曇り空、寒さ厳しい、もしも雨が降り出したら、そのまま雪になってもおかしくない、ありえるんじゃないかと思う。当初、北千住と思ったが途中で気が変わる、天ぷらにしようと思って入谷へ。地下鉄の出口を出て歩き出すと、すぐにその場に固有な特徴が感じられる。おお、台東区入谷だな、と思う。古さと新しさの、この混ざり合った感じ…と思う。ずいぶん前に東上野界隈で働いていたとき、よく似た雰囲気の場所を毎日のように歩いた。あれはもう二十年近く前だが、台東区の街並みは場所にも拠るだろうが昔と今でそれほど変わってない気がする。市井とビジネスとのこの混ざり合い加減。配送や営業の自動車は歩行者を警戒する気持ちが強くて、そろそろと減速気味に、やや遠慮がちに交差点を侵入してくる。中小企業が入居ずる雑居ビルの立ち並ぶ合間合間に、やや古びた住宅または住居として使われているビルの玄関があり、周辺には夥しい数の鉢植えが並べ置かれていて、残った水を撒いたような跡が路面にまだ黒く濡れている。その先に小さな看板と清潔感のある白い暖簾、小さなお品書きが入口脇に置いてある。まるで他人の玄関をごめん下さいと言って開ける気分で引き戸に手をかける。まだ無人の店内、白木のカウンター、綺麗に折られた天紙が、お供えものを待つかのように設えられている。ビールのグラスはうすはりで、もち上げると紙のように軽い。はじめての店だからスタンダードなお昼の品を注文する。途中から冷酒にきりかえて、海老2、野菜3、魚2、かきあげ、ごはん、お椀、追加はせずおしまい、ここは呑める店だ、近々また、夜来ようと思う。