マッコイ・タイナー

マッコイ・タイナー死去の報せを知ったのは先日のこと。自分にとっては二十代にずいぶんたくさん聴いた音楽家で、そして気付けばもう何年も聴いてない。もちろんコルトレーンが率いたカルテットのピアニストとして、激しく突き進むコルトレーンの背後で瑞々しいリリシズムを華麗に添える役割みたいな、つつましくも抑え所はきっちり抑える名脇役みたいな、そんな存在感を感じてはいたが、ソロになってからの、とくにコルトレーンの精神をいきなり継承したかのような70年代のアルバムをはじめて聴いたときには、まるで人格が変わってしまったのじゃないかという印象も受けたものの、その「熱さ」にやられて、とにかく何度も聴きこんだものだった。「Sahara」「Song For My Lady」「 Echoes Of A Friend」「Song Of The New World」「Enlightenment」と、立て続けに聴いた。当時、このへんの輸入CDは安くて買いやすかった。「Enlightenment」だけは未CD化(多分)だったので、仕方なくLPで買って、汗だくのマッコイ氏の横顔アップのでかいジャケットが暑苦しかった。音楽的な強弱とか繊細さで聴かせるというよりも、とにかく熱意とパワーで、滴り落ちる汗と熱で視界が朦々となるような、当時のハードロックと並んでこれぞまさに70年代的な暑苦しさであって、僕はそういうのがこのうえなく好きだと自分で思っていた。とてもなつかしい。再生すると、鬱蒼とした雰囲気がスピーカーを通して広がり、雑然としたざわめきの中から、やがて音楽が立ち上がってくる、それを聴く瞬間。