捌く男

鯖はぜんぶ竜田揚げ、鰺もぜんぶフライにした。大量の揚げ物が、食卓にのぼった。すばらしい。壮観である。でもこんなにたくさん、絶対完食できないよね、そりゃでしょ、いいよ無理しなくて…などと言いながら、夫婦二人で相当食べすすんで、それでも多少は残ったけど、予想よりははるかにたくさん食べた。

魚の捌きかたについては、今やyoutubeという便利なものがあるので、その包丁の使い方について、巧みな技術を映像で細やかに確認することができて、大変便利な世の中ではあると思いながらも、さまざまな映像を漁っていると、魚の捌き方を紹介するやり方一つとっても、人によってさまざまな個性があるものだなとも思う。それは映像的な個性なのか撮り手の人格的個性なのかが不分明なものとも言えるのだが、どちらかと言うと後者、というよりも人の肉体感というか物体感みたいなもの、それが魚や包丁のそれではなくてあくまでも人間の感じとして、妙に生々しくこちら側へ近づいてくるものだと思うのだ。そのもっとも顕著に感じられた例が下のこれだ。

https://www.youtube.com/watch?v=oAcK9jlBSfI

この台所の感じ、流しや三角コーナーの感じ、蛍光灯的な光と暗い影の感じ、そこに一人でいるひとりの若い男性。妙に低い位置からこちらを覗き込むかのような視線で、とても親しみ深く、愛嬌のある、爽やかで、いい感じのヤツだが、それと同時に、もうどうしようもなく、男、若い男性という、それだけで絶望的なまでに濃厚で厚かましく重ったるい存在感、咽るほどに匂い立つようなものがあって、なんというか、はるか大昔、まだ子供の頃に、唐突に出くわしたエロ映像から受けた衝撃を、鮮度そのままで何十年ぶりにいきなり突き付けられたような気さえした。

なにしろ、カメラの位置を変えにくるたびに、その喋りと呼吸音が耳元の近くでぶわっと浴びせられているような、その体臭と口臭にむわっと見舞われて背筋がぞっとして全身鳥肌みたいな限界線越えの近さがあり、この回しっぱなし映像特有のだらしない自画撮りエロ感、淫靡でとめどなくけじめなく、どこまでも流れていく、素人映像本来の力がみなぎってる感じがするのだが、ああ・・嫌だ、この馴れ馴れしい親近感の裏側に、きっと狂暴な性欲があふれるほど煮えたぎってるに違いないと確信せざるを得ないような、若さの獣性が液状になって零れ落ちるかのような気配、軽いショックを受けつつその様子を最後まで見届けた。このひと…魚捌くのめっちゃ上手い。