せんきょ

僕ら二人が並んで歩いている前を、僕らよりもたぶん一回りくらい若い夫婦が並んで歩いている。ご主人はパナマ帽をかぶっていい感じにヨレたアロハシャツを羽織って、裸足に草履履きな、下町の兄さん風でちょっとカッコいい。そして二、三歳くらいの子供を抱いている。子供は抱っこされてお父さんの肩にあごを乗せて、じっと後ろの景色を見ている。我々二人のことをじーっと凝視したかと思うと、ふと空の向こうを見上げて、ふらふら視線を彷徨わせたりもする。我々夫婦はその子を見ながら「抱っこされた子供は、ああして後ろの景色ばかり見るね」「動いてるものが全部面白いのね」などと話している。ご主人の歩き方はややガニ股、隣の奥さんはすらっとキレイ目な後ろ姿で、歩いて茶髪が跳ねるたびに陽の光を反射させている。

反対側から歩いてきた男性がご主人の友人だったらしく、ご主人が「よおー!!なんだよ!どこ行くの??」とでかい声を上げる。友人は相手を見て破顔しつつ、「せんきょ!」と言う。ご主人はそれを聞いて「え?せんきょ??」と返す。一呼吸おいて奥さんが「あー、選挙ね。」と返す。ご主人は奥さんを見て、ふたたび友達を見て、「おー!じゃあな!またな!」と言って、友人とすれ違う。ご主人の肩ごしに背後を見ている大きな二つの瞳が、遠のくその背中をじっと見つめている。