事務屋

「黄金列車」の登場人物たちは、お宝を奪おうとする有象無象から「事務屋め!」と罵られる。官吏、事務屋。軍人とはまるで違う職業、制度の元で、粛々と業務をこなす、制度の歯車、制度そのもの、制度の運用継続のために、機械のように仕事をする。彼らは管理物資を脅威から守りながら、指示された目的地まで移送する。それが任務だ。彼らの率いる組織はほとんど武力を持たないから、武力抵抗は出来ない。だからあらかじめ白旗も用意されているし、制度的合法性が有効である世界を前提としてしか、業務を遂行できない。彼らがその土壌に立たない、ここが制度後の世界だと認識している者らと、折衝をしなければならないとき、それが彼らの脆弱性を露呈させる最大の瞬間でもあり、同時に彼らの存在根拠を稼働させる最大の瞬間でもある。彼らは相手が管理物資を強奪しようとするのを咎める。その行為は結果的に強奪にあたり、それはあなた方が国家に反逆することを意味するが、その覚悟がおありか?と。もとより国家や指揮系統の瓦解で自暴自棄となっている連中に、その言葉が有効なわけがない、と思いきや、そうでもない。相手は怯むのだ。事務方はすかさず畳みかける。移管の手続きであれば、完全に合法であり我々も納得できる。受領書を受理したい。それで物資の受け渡しは成立だと。その客観的正当性はおくとして、相手は云われたように指示通りの書式で受領書を作成する。しかも不備を指摘されて書き直したものを再提出までする。受領書の授受は実際の史実らしい。