創作

乗代雄介「ミック・エイヴォリーのアンダーパンツ」は650ページもあって、外に持ち歩くのが躊躇されるほどの分厚さなのだが、結局毎日持ち歩いている。この本ははじめから380ページくらいまでが「創作」で、十数年分くらいの期間で主にブログに書かれた短編というか掌編がぎっしりと何十篇も載っている。いちばん古いもので2001年、著者は86年生だから15歳のときに書かれたことになるが、読んでとにかくその完成度の高さに驚く。それ以降の作品群のどれを読んでも面白くて圧倒されるのだが、話そのものは小学生的下ネタに満ち溢れた腰砕けギャグがひたすら炸裂するどうしようもない系で、数分に一度はへらへらとだらしなく笑いながら読むことになるので、電車内での読書には向かない。この分厚さで、序文の次から前半はひたすら下ネタ、後半は"ワインディング・ノート"、最後は新作の小説という構成で全650ページって、それだけですでにかなりカッコいい本だとは思うが、しかしこれだけ笑わせてもらって何だけど、笑いっていうのは、本当になりふり構わぬ自己放棄の産物なんだな、というのがよくわかる。相手が笑って楽しんでくれさえすれば、手段いっさい選ばずなんでもあり、おのれのスタイルだのレベルだのしゃらくさいこといっさい無し。ここまで作り手である自分を滅却できるというのは、ある意味理想的な創作態度だ(で、それが成功することで結果的には強く独自のスタイルが確立してしまうのだけど)。ものすごくスベってる寒いお笑い芸人と、ウケまくってる芸人と、どちらも自己放棄感というか他者への奉仕感においては、同価値であることがわかる。ウケまくって有名になって偉くなった芸人が、後付けで妙にインテリぶって偉そうになるのがなぜあれほどサムイのか、ということの答えでもあるかも。