短編集

井伏鱒二「夜ふけと梅の花」を読むと、ああこれは、短編集という形式のもっともいい感じなやつだな…と感じる。集められた一つ一つが、それぞれ固有の世界にしっかりと閉じていて何者の浸潤も許さない、それでいて一冊の本であることによって、どこかにおいてはそれぞれが響き合っている。およそ人間の小賢しい操作では実現できないはずの、無機質な自然現象の偶然の結果を思い起こさせるような。太宰治の処女作品集「晩年」が「夜ふけと梅の花」から深く影響を受けたのだろうということが、よくわかる。具体的にどの作品のどこがということではなく、全体の在り方というか、成り立ちの基礎のところでしっかりと同じ土台を受け継いだ感じがある。