ボジョレー

指定の時間になったので、スタンバイしておいた処理を一気に流した。結果を確認して本日のタスクは終了した。誰もいなくなったオフィスを見渡す。自分のいる場所以外はすでに消灯されているが、人が歩いて近づくと天井のセンサーが反応して付近一帯の照明が点くので、わざわざ暗い場所に歩いて行って電気つけたくないので、そちらには近寄らずに荷物と上着を持ってエレベーターの方へ向かった。いつもの正門口もとっくに閉まっているので、警備室脇の通用口をくぐって退社する。もうこんな時間だというのに、これから御徒町の店に行かないといけない。Eさんが待っているのだ。こんな遅い時間から会って呑んでも、どうせいつもの店だし、すぐにラストオーダーだし、ちっともいいことないと思うのだけど、それでもかまわないから来いと言うから仕方ない。店に着いたときはたしか十時半を過ぎていたと思う。メニューを見たら、そういえばこの時期はボジョレー・ヌーボーだった。さんざん悪口を言われるボジョレー・ヌーボーだけど、僕はそこまで嫌いじゃないけどなあ、何にしてもそうだけど時と場合によるだろう、っていうかこれ、けっこう美味しいじゃないのと、立て続けに二杯くらいもらった。金曜夜はいつもそうだが今が金曜夜だとは思えない。金曜夜の自分は他曜日の自分から羨ましいと思われる存在だが、そのときの自分は自分がめぐまれた境遇にいるだなんてちっとも思ってない。他人の芝生が青く見えてるんだろと、幾人かの自分から送られる羨望の思いを、醒めた態度でやり過ごすばかりだ。