ワイルド・スタイル

チャーリー・エーハン「ワイルド・スタイル」(1982年)をDVDで観た。これはすばらしい。グラフィティ、ヒップホップ、DJ、ブレイクダンスの黎明期が、ほとんどそのままフィルムに焼き付けられている感じ。

ウォーホルが「ポッピズム」にてリポートした60年代のニューヨークも凄いが、本作の80年初頭のニューヨークも凄い。警察の目を盗んでグラフィティを描き続ける主人公とその仲間たち、ターンテーブルとミキサーによって、すでに完成形に仕上がってる感じのブレイクビーツを矢継ぎ早に繰り出すDJと惚れ惚れすようような掛け合いのラップをくり広げるラッパー。まだアンダーグラウンドな「熱いシーン」を目ざとく嗅ぎつけ平然とその場に介入してくるジャーナリストの白人女、路地裏で銃が出てきて、よせよこいつは友達だよ言われて銃を下すチンピラ、キースへリングやリキテンシュタインが壁に掛かる部屋の、金持ちばかりが集まるパーティーと当時のアートシーンを担う画商やコレクターたち。それらすべてが、あの狭い小さな場でごった煮になって沸騰しているようなものだ。

グラフィティがもっとも過激だった時代というのは、ほとんど壁も地下鉄車両の内も外も、ほぼすべてグラフィティで埋め尽くされてるようなもので、ほとんどクリストみたいな「梱包」的なムーブメントのようでもある。もちろんあっという間に規制されるとともに、アート文脈へと回収される動きとか、どこかで聞いたような話も、なるほど当時はたしかにこうだったのかもと思わせるような感触で、女性記者の雰囲気とか、まさにいかにも…と思わせる。

正直自分は、ヒップホップの良い聴き手ではなかったし今もそうだが、そんな自分の体験範囲内でも明確にわかるオールドスクールと呼ばれたようなモロなスタイルのラップが、超すばらしいのだ。はじめてそれ(自分の場合それはビースティーボーイズだったが)を聴いたときに受けた衝撃が、よみがえってくるようだ。