フランシス・ハ

Amazon Primeノア・バームバック「フランシス・ハ」(2012年)、面白かった。主人公のフランシスは見習いのダンサーで、ダンスカンパニーからは戦力外通告されてしまい、ニューヨークをいったん離れたり、あてもないのにまた戻ってきたり、見栄をはって意味不明なパリ旅行したり、見た目もややのっそりしてて、うすらでかい図体を自分でも上手く取り廻せていないような、自信みなぎる表情と不安でよるべない表情が重ね合わされたような、いろいろと人生に悩みや問題をかかえた若い人に特有の、かるい鬱陶しさが絶妙なあんばいで醸し出されている。夢の実現へ、あるいはカタギの道へと身を固めていく周囲の人たちを横目にしつつ、夢なかば破れかけた自分を認めたくはないけど認めるしかない。テンション上がると何考えてるか見えなくなる感じとか、友人ソフィーへの思いとか、ほかの様々な人たちの付かず離れずな、若い時代だけに特有の、絶妙な距離感と関係性が、すごく上手いこと描かれていた。自分自身の二十代の頃の記憶がよみがえるのを促されるようなところもあり、カラックス風にボウイ「モダン・ラブ」で主人公が走るシーンも出てくるけど、作品自体に昔っぽさはない。本当に昔から、実際は誰もが、そういうものだった。そうそう、そうだったという感じだけど、ただし本作に漂う空気、人々の関係によって描かれた雰囲気そのものは、自分の若い頃にはなかったような新しいものに感じられた。もはや男/女であろうが男/男であろうが女/女であろうが、緊張と弛緩、親密さと拒絶、建前と本音、内と外は、ステロタイプな枠組みとはまったく無関係に、個別で生じたり生じなかったりする、見栄や打算や本音やタテマエは今も昔も変わらないが、昔のように過去の規範が強くない場で、個々に手探りしながら彷徨ってる感じが、まさに今どきっぽいと思った。あと映画の作品名がオチになってるのも良かった。