雑談

朝の電車、一番端の座席に座って居眠りしていたら、若い女性ががやがやと三、四人のりこんできて、すぐ近くのドア脇に固まって楽し気にお喋りを始めた。朝の電車というのは混み具合に関係なくふだんは静寂が支配しているのがふつうで、こんなふうに複数人がわいわいとお喋りすると、その声は車内によくひびく。眠りは妨げられて、ああやれやれと思い、彼女らの話の内容が頭の上からひっきりなしに降り注いでくるのを目を瞑ったままで聴くともなく聴いていた。まったく他愛もない、どうでもいいような話が、途切れることなく続いていて、ただ楽し気で早口でわいわいやっているのだが、耳障りなほどうるさいわけでもなかったというか、こちらも半分夢の中だったので、なんとなくその対話を聴いているというより、対話のなかに無言で参加しているみたいな、妙な心地よさがうまれてきて、このままいつまでもこれを聴いていたとしても、それはそれでいいかもと思っていた。が、次の次の駅あたりで彼女らはいっせいに降りていったので、車内はふたたび静かになった。しばらくしてまたうとうとと眠りに入った。

妙な心地よさの原因は、たぶん、まったく他愛もないどうでもいいような話というのが、意外と稀にしか聴こえてこないものだからかもしれない。複数人の会話といえば、関係への忖度とか、その場にいない人間の噂話とか、対話内容とは別に、その場に作用しているだろう「聴こえない別の意味」が、傍から盗み聞きしてる人にも感じ取れてしまうものだろうけど、今朝の会話にはそういう匂いがなかった。すがすがしいほど単なる雑談だったので、それが良かった。たぶん今年入学したばかりの、大学生の子たちである。