熟成

前にアマゾンで買った、食品を真空パックにしてくれるやつ。口元を機器に挟んでスイッチを押すと、中の空気を吸い取ってから、口を密閉してくれる。便利だし、そんなに高くなかったし、面白いからたまに使う。先日も、鯵を買って腹側から開いて、それを真空パックに詰めて冷蔵庫に入れておいた。大きくて立派な鯵だったので、刺身にしようと思って買ったのだが、まな板にのせて包丁を入れはじめたら、あまり鮮度が良くなさそうだと自分でもわかったので、それで急遽冷蔵庫に入れておくことにして、真空パックにしたのだ。ただし真空というにはやや吸引が甘くなったような、完全にぴったりと密着した感じではなく少しの隙間が生じているようには思った。それを数日たって開けてみたら、あ…これは…と思う状態になっていた。開けた途端に、ふっと軽く「くさや」のような香りが立ち昇った。すこし白濁したかのように見える身の状態をじっと見つめてみた。傷んでいる、とまでは言えない。しかし、熟成して旨味が増した状態とも言えない気がする。そのような段階を、少しだけ越えてしまってるきらいはある。でも、けっしてダメではない、そう考えたい。このくらい「進んで」いる状態が、好みだという人もいるだろう。というわけで、グリルに入れて加熱し、焼き上がったものを食べてみた。悪くはなかった。でも、美味しいといいきれるわけでもない。いや、美味しいと言ってもいい。よくわからない。とにかく買って真空パックにしたときに、かなり強めに塩をしているので、それが効いてるとは思う。塩辛さが効いてる。その奥から、あのくさや感、発酵感が、ほのかに上がってくる。それが良いのか悪いのか、なんとも判断のつきかねる微妙な気持ちのまま、とりあえず食べ終えた。真空パックは、もう一尾分ある。これ以上冷蔵保管しておく選択肢はないので、こちらもやはりグリルに入れて焼いた。焼きあがったものを、明日以降に食べるのは、さすがにちょっと危険かもしれないが、粗熱がとれたら、冷蔵庫に入れておいて、明日朝の状態次第では、まだ大丈夫な可能性もあるかな?などと思った。ちなみに妻は、それらには最初からいっさい箸をつけなかったし、あたりに軽く漂っている臭いに、釈然としないような浮かぬ顔をしていた。そして翌朝になったら、冷蔵庫に保存しておいたはずの鯵一尾分は、あとかたもなく捨てられていた。