渋谷

きのう松涛美術館に行ったときの話だが、銀座線が渋谷駅に着いたので電車を降りたら、まるで見慣れないホームの景色が広がっていて驚いた。よく考えたら駅の改装が終わって以来、銀座線の渋谷駅に来たのはその日がはじめてかもしれなかった。というか渋谷なんてたまにしか来ないから、駅の改装工事をやっていたのかどうかの認識すらない。松濤の方角に行くためには、こちらを向いて歩いて良いのか、それすらわからない。たまに来ると、以前の記憶とまるで違う景色がどこまでも続くので、ほとんど記憶喪失者みたいな感覚で歩くしかない。

駅前の、一色で塗り固めたかのような巨大な駅前商業施設ビルの峠を抜けると、裾野ではあいかわらず工事ばっかりやってて、騒音と囲いと網とケーブル類と警告線とカラーコーンばかりの景色があって、汚くて薄暗い高架下があって、車の排気ガスと騒音に満ちていて、やたら勾配や起伏のある通りの両側に雑居ビルがひしめき合っていて、路面にはみ出すかのようにお店が並んでいて、狭いテラス席やその前を若い人たちが座ってたり行ったり来たりしてる。渋谷の印象はいつもそんな感じだ。ただただ忙しなくて騒がしくて節操なくて落ち着きがなくて、ほんのちょっとでいいから黙っててくれないかと言いたくなるような慢性躁状態の場所というイメージだけど、だからこそこの街に惹かれる、ここが好きだと思う人がいるのも、それはそれでわかる。