久々の店に行ったら、雨のせいか金曜夜だというのに暇そうで、客は常連ばかりで、スタッフの子たちも、もてあました時間によりかかった馴れ馴れしさ微増のリラックスモードで、店主はやたら声をはりあげたナチュラルハイ状態で、ほとんどお店の緊張感なしくずしな、ユルくてダルダルな心地よさの中にみんなで浸ってるみたいだった。常連客とはいえお互い名前も知らず交わす話題もない他人同士が、ちょっと笑って挨拶の会釈をして、店主の話の矛先が適当に割り当たるのをゆるくキャッチしては他所へ投げ返しながら、うつむいたまま笑い声をたてる役割を担って、それぞれカウンターに位置づいている場に、自分も加わったかたちだ。外からは雨の湿った音が聞こえてきて、それに背を向けた格好で、店内の中心から広がるふわっとした明るさを、我々数人の客だけが取り囲んでいるのだ。注文も今日にかぎってはやや壊れかけた店主が勝手に次から次へと差し出してくるのを受け取るがままのお任せコース状態のようだ。初夏を前にして、湿気の成分と皮膚表面との境界もあいまいに感じられるままに、こうして酒を飲む季節まで来たのだなーと思う。酒それ自体の味もいつもより軽く感じられ、まるで湿度から浸潤されて口内で雨と同じように判断されてしまったのかもしれなかった。釣った魚のまだ引き締まった白身が、生硬ながら海の成分を多分に含んでもいて、こうして海と陸と空と雨が店の外と中を融合して溶け合うのだった。