お熱いのがお好き

Amazon Prime(MGMチャンネル)で、ビリー・ワイルダーお熱いのがお好き」(1959年)を観た。始めから最後まで、面白さがぎっしりと並んでいて、じつによく出来た誰もが満足するコメディという感じだ。本作のマリリン・モンローは、歌を聞かせ、コミカルな演技を見せ、妖艶なキスシーンで観客を魅了する、まさにマリリン・モンローのイメージそのものを体現する感じだけど、それがそれだけでなく、禁酒法時代の非合法組織が跋扈する世界で、まさに綱渡りの渡世を生きる主演二人の男性(トニー・カーティスジャック・レモン)の、女装して奮闘するドタバタがバランスよく配置されているので、映画全体としてちゃんと贅沢に出来ている感じがする。マリリン・モンローがきちんとふさわしく脇役的なヒロインに収まっている。つまり映画としての盤石感がすごくしっかりある。

いや、普通気づくだろ?とか、そんなのありえないでしょ?とか、そういうのをまるで気にせず、平然と無視して、全くそうではないものとして扱い、物語をぐいぐい進めていくのこそが、映画だなとあらためて思う。映画は、現実とか世間的約束とか因果とかその他色々な浮遊するものらを一か所に吸いこもうとする磁場から一貫して自由に、映画だけに通用するセオリーで世界を構成させる。そこでは彼らが、あまりにも魅力的な女性であり、そのメイクを落とさないかぎり、彼らは二度と彼らには戻らない。(ただしマリリン・モンローはあくまでも彼女自身なのだが…)