巡回

ユキヤナギが暖かい風に揺さぶられて、あたりに白いものを舞わせているのは、これは今の季節をわかりやすく説明してくれてるような、そんなショットの積み重ねと思う。まだ訪れたことのない駅に降り立って、知らない名前の商店街を歩いて、狭い階段を昇った二階の店を訪れて、窓際まで光が差し込んでいる明るい室内を黙って一巡したあと、傍らのテーブルに座ってビールを注文する。冷えたグラスに液体を注ぐと指先に鋭い冷たさが伝わるのを感じつつ、静かに、お茶をいただくかのようにそれを飲んで、グラスをテーブルに戻して、しばらく前方を見つめる。かすかなアルコール分が薄い煙のように体内を巡っている。窓下の道端では、爺さんと婆さんが寄り集まって猫に餌をやっている。猫よりもあなた方の方が、生き延びて春を迎えたんだなあと思う。誰も彼もが冬のうちに死んでしまうような気がするので、冬を通り越したらもう一年の猶予が与えられたように思う。たしかに春は春で、特有の不思議な動悸や呼吸困難を呼び寄せもするのだけど、それが原因で命が尽きるわけではないだろう。今年いちばん大掛かりな死の回収作業はおおむね終わったはずだと思う。誰もが春の訪れを、これまで体験してきたものの再来として感じ取っている。これまでの自分の生が連続してきたことの実感として、誰もがそれを感じ取っていると思う。