戸塚


みなとみらい線横浜駅で降りた。昇りエスカレーターで上のフロアにまで上がるが、このエスカレーターが、二本あるうちの一本が高速エスカレーターなので早い。乗った途端自分が後ろに引っ張られるくらいのスピードで動く。降りた直後も、それまでのスピードと降りた後のスピードに落差があり過ぎて自分が重くなったように感じるほどだ。あのスピードで転んだりする人とかがほとんどいないのであれば、皆それなりに慣れているというところがすごい。


相鉄線乗り場まで来て、切符売り場に掲げられた路線図を見ても戸塚がないのでおかしいと思い、何度も確認してやはりないのでよくよく調べたら戸塚はJRか。JR乗り場まで引き返した。それにしても横浜駅の人混みのすごいこと。向こうから来る人と一々ぶつかりそうになる。わざとやっているのかと思われるほどすれ違いに失敗する。なにか、僕のわかってない歩行上のルールでもあるのか。僕だけがそれを知らずこれほど人とぶつかりそうになってるだけか。でもとにかくどうにかJRの改札まで来たので、東海道線は東京方面なら7番線8番線。でも今日は反対方向だ。熱海行きあるいは平塚行きの電車が19:10に出る。あと5分くらいで来る。何番線だったか忘れた。戸塚は横浜の次で10分程度で着く。普段は地下鉄に乗ることが多いのでJRには慣れてない。JRは鉄製の機械という感じがする。


戸塚をはじめて訪れた。駅の改札を抜けて、西口に下りた。降りる人は多い。通勤通学帰りの人が多い。そのタイミングを見計らうかのように雨がぼたぼたぼたと地面に落ちてきた。僕の前を行く女性の袖や背中が濡れて雨の染みが斑点になる。駅の出口から駅前のアーケード風になっている入り口まで数十メートルの遊歩道になっているので、歩いてる人が皆、先の軒下まで走るかと思ったが、前の女性がそのままの歩調で歩いていて、周囲も同じ調子で歩いているし、傘を挿す人も少ない。ここでもなにか、僕のわかってないルールのはたらきというのか、雨の降り始めにさほど関心もない全体性というか風土を感じる。僕も同じように歩いたらやはりそれなりに濡れた。鞄が濡れ、肩掛け紐が濡れた。髪や首筋も濡れたのでハンカチで水滴を拭き取った。軒先まで来て、ようやく屋根のついた道だと思ったら、外から見てわからなかったのだが、見上げれば別に屋根ではなく、単に網が掛かっているだけで雨の落ちてくる夜空が見えた。タイル貼りの床で、左右に各種商店の立ち並ぶアーケード風の通りには、雨が降る日には雨が降る。では走ってもたしかに無駄だ。しかしコンクリート製の巨大な梁が何本も通されているその下を歩けば傘いらずで歩けるようなので、その道を選んで歩いた。さらにしばらく行くとただの商店街になった。アスファルトが黒く濡れて、パチンコ屋やドラッグストアのネオンを反射している。回転寿司屋の看板にも雨の水滴がびっしりとつき、カンパチとかカツオとか書いてある上を一筋二筋と涙のように水が流れている。目的地まではもうすぐのはずで、いや、GPSとしてはもう目的地と現在地がほぼ重なっているので、このまま傘を挿さずにもうしばらく探そうと思う。見回すとすぐに目当ての店が見つかった。なんだここか、こんなにすぐ近くかと思う。見上げた先の、ビルの二階だ。歩いて前方の角を回り込んだ先に入り口があるようだ。少し薄暗いけど大丈夫か。