つくば

つくばに来たのは三年ぶりらしいが、前回はそんなに前のことだっただろうか。松見公園も筑波大学のキャンパスもぜんぜん変わってない印象だった。大学構内を歩いていると、こんなすばらしい環境で大学生としての一時期を過ごすということの途方もない贅沢感…

夜明け前

朝の五時半に家を出たら、外はまだ真っ暗だった。何か、心が重く塞いだ。こんな暗い夜を、久しく見てなかったと思う。そんなことないだろう、いつも夜遅くに帰宅するくせに。そう思うのだが、これはいつもの夜よりも、さらにもう一階層か二階層ほど深くて暗…

TOPICA PICTUS

南天子画廊で、岡﨑乾二郎 TOPICA PICTUS きょうばしTakuro Someya Contemporary Artで、岡﨑乾二郎「TOPICA PICTUS てんのうず」を観る。 絵画=イメージであり、それと同時に絵画=時間でもある。過去から現在へのリニアな流れ、それが時間だ。 AとBとの関…

ボジョレー

指定の時間になったので、スタンバイしておいた処理を一気に流した。結果を確認して本日のタスクは終了した。誰もいなくなったオフィスを見渡す。自分のいる場所以外はすでに消灯されているが、人が歩いて近づくと天井のセンサーが反応して付近一帯の照明が…

注文

お酒は、色々な銘柄をいろいろ試したいと、思わないわけではないけど、それでも大体いつも同じものばかりを注文しがちだ。お店にもよるし、何を食べるのかにもよるが、だいたいこれまで何度も通っていて、滞在時間も短くて、一、二杯で数皿ぱぱっと呑んで済…

反抗

戦争に反対するというのは、ほとんど戦争するようなものである。以下の話は、自分にはとても身につまされる。想像上の自分もやはり同じような屈辱のなかにある気がする。反抗の困難。 しかしこうして無為に眺め暮らしているうちに、私はだんだん自分の惨めさ…

JOY

山下達郎の八十年代のライブをまとめたアルバム「JOY」収録の「蒼氓」がシャッフルで再生されて、思わず引くほど生々しい八十年代の空気に身を包まれたような錯覚をおぼえた。後半の、客に曲のフレーズを延々とリフレインさせるところ。途中で歌を止めて素の…

BlueTooth

先日買った防水ウォークマンはBlueToothが付いているので、音楽ファイルをインポートすれば音楽プレイヤーにもなるし、BlueToothをONにすればワイヤレスイヤホンにもなる。ということは、水泳しながらApple Musicの膨大なライブラリ内音源を延々シャッフル再…

ストーリー・オブ・マイライフ

Amazon Primeでグレタ・ガーウィグ「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」(2019)を観る。僕は原作は未読だが「若草物語」そのものというよりも、おそらくは原作のエピソードと登場人物の娘たちが実家を出てからのエピソードとが巧みに混ぜ合わさ…

能見堂跡

金沢文庫駅から住宅地を抜けてハイキングコースとして整備された山道を登っていくと、能見堂跡という地点に至り、それまで鬱蒼としていた木々が開け、下界の広がりを展望できる。むかし金沢八景と呼ばれるにいたった、当時は絶景とうたわれた場所らしく、な…

釣り力

釣り好きで、酒好きで、お喋りが好きな人の話し相手をしている。相手であるからには、適度な相槌な応答が必要だから、それを適宜挟もうと思うのだが、なにしろお喋りの好き度合いがとてつもない人のようで、こちらに一切のサービス権をあたえずのべつまくな…

大船国

横浜から上野東京ラインの上り電車に、毎日乗って帰宅するのだが、いつものようにボーっと上の空で乗車して、しばらくしてふと気付いたら、電車は大船駅に着いたところだった。わー!っと思って飛び降りた。なぜ反対の方向に乗ってしまったのか、さっぱりわ…

ヨドバシポイント

去年の夏、財布を紛失して、失くしたものは仕方がないのだからと、もうあきらめているし、もう忘れていた。…そうしたら、つい先ほど警察から連絡があって・・・などという話であれば良かったのだが、そうではない。 貴重品の紛失というのは、アフターの手続…

泳ぎよう

今日も水泳をして、いつもの時間分、いつもの泳距離で終わった。ここまで来ると、マンネリズムを通り越してほとんど儀式みたいである。週二、三回を心がけてジムに通い始めてすでに四年が経過したわけだ。四年…。そんなに続けているなら、さすがに以前と以降…

甘い罠

反省はしてない。悲観もしたり楽観したりすることもない。自信はない。そもそも未来に何も期待してない。試験対策も受験勉強もやってない。前向きな気持ちがない。教師や親とは視線を合わせない。進路は決めてない。将来の夢はない。進学するとか、就職する…

あぶく銭

昔にどの程度、そういうお金が現実に存在したのかは知らないけど、おそらく今はもう「あぶく銭」というものが世の中からほぼ尽きたのではないかと想像する。「あぶく銭」は、かつてどこにあったのだろうか?それはお金持ち、あるいは成金、あるいは大してお…

室内

芸大美術館の陳列館で「日比野克彦を保存する」を観た。 (https://hibino-hozon.geidai.ac.jp/) 複数の人々によって撮影されたアトリエにいる滝口修造をとらえた写真群が印象的だった。もちろんこの部屋と本人、共に有名でどこかで何度も見たことがあるけど…

深夜

iPhoneに「探す」というアプリがあって、これを起動すると、あらかじめ登録済みのiPhoneについては、GPS情報が確認でき、紛失モードに変更したり、呼び出し音を鳴らしたりすることができる。紛失や盗難時に使えるし、ふだん部屋の中で自分のiPhoneがどこかへ…

むかし

森茉莉「ビスケット」を読む。これが収録されている「私の美の世界」はたしか二十代の頃読んで、すでに内容はほとんど忘れてしまったが、久々に読んだらなんとなくなつかしい。それにしても森鴎外の娘であるならばどうも計算が合わないというか「この感じ」…

紅葉

朝の晴れた空を背景にケヤキが半分がた紅葉しており、その黄色が粘りついた絵の具に見える。ぼってりと重いボリューム感をもった物質に見える。筆で短めの線を上から下へ何度もくりかえして描いたように見える。 モノをパッと見て、少し角度を変えて見て、近…

配信ライブ

今年はじつにたくさんのネット配信ライブを購入・鑑賞していて、正直これまで幾つ購入して幾つ観たのか、今となってはまるでおぼえてないほどだ。まあ、自分が観たくて観たものだけではなく、妻のリクエストに応えて購入し一緒に観ていたものも多かったとい…

もの食う女

武田泰淳「もの食う女」(1948年)が、とても良かった。 二人の女性と付き合ってる主人公の「私」。相手の一人弓子は新聞社勤務で快活、活発で社交関係も広く、「私」の弓子に対する想いほどには相手は「私」を想ってないようで、素っ気なくされたりないがしろ…

日野、いしだあゆみ

平山城址公園に紅葉の気配まだ訪れていない。それでも多少は、樹木たちが生き物として放つ香りに季節特有なものが含まれているような気はする。 よく晴れた空だったが、大粒の雨か雹の落ちてくるかのような、ぽつ、ぽつと地面にあたって跳ねかえる音が、ひっ…

ブレッソン二作

新宿シネマカリテでブレッソン「バルタザールどこへ行く」(1966年)を観る。 オートバイ(というよりも原動機付自転車)、トランジスタラジオから流れる歌謡曲のけたたましい放送音、明らかに二十世紀後半に時代背景が設定されているはずだが、まるでそんな感じ…

忘れた

大岡昇平「捉まるまで」は素晴らしくて、何度でも読み返したくなる。 彼はそのまま歩き出し、四、五歩歩いて私の視野の右手を蔽う萱に隠れた。(前に書くのを忘れたが、私の右手山上陣地の方向は、勾配のかげんで一寸した高みとなり、その方は伏した私の位置…

休暇

ふだん有給休暇を取ることがあまり無いのは、事前に周辺調整するのが億劫だからで、しかし最低限取得すべき日数は決まっているので、だから今日みたいに何の脈絡もなく目的もなく、とつぜんぽっかりと平日に休みを取ることもある。そうするとまるで、いきな…

眠り

朝、電車の座席で、うとうとと居眠りしていた。よくわからない夢を見ていた。内容はすっかり忘れてしまったのだが、何事かに夢中になっている自分がいて、傍らには仕事の相手なのか昔の知り合いなのか、よくわからない誰かがいた。あるのっぴきならぬ事情で…

観察

大岡昇平「出征」で、当初補充兵として招集されながら、だまし討ちのように前線への出征が決まった主人公は、やがて来たる自らの死を覚悟し、迷いながらも最期に一目会うため東京に妻子を呼び寄せる。大変な苦労をして東京に着きほぼ偶然のように再会した妻…

文体

大岡昇平の小説がもつ文体そのものの魅力。癖や歪みもない、冗長でも簡素でもない、シンプルでロジカルで過不足なく、感情は適切に抑制されていて、観察の位置取りが適切で、認識の的確さが一々説得的で、標準的で汎用的で、誰もが納得させられる論理的な積…

青山

昨日訪れたギャラリーは、ワタリウム美術館の通りの反対側の路地を入ったすぐの場所にあるのだが、外苑前から歩いていくと見慣れぬ景色が続いて、ある地点で急にワタリウム美術館があらわれたように感じられた。いつもとは違う方角から歩いてきたからなのか…