Amazon Primeでデヴィッド・ロウリー「さらば愛しきアウトロー」(2018年)を観る。これは良かった。冒頭で、車で逃走中のロバート・レッドフォードと、車の故障で困っていたシシー・スペイセク、おそらく後期高齢者かその手前と思われる男女二人が出会い、会話を交わすところからカップル誕生となるまでの流れのすばらしさで、これは傑作だと早くも確信させられた。それだけで充分過ぎる密度があるのに、さらにケイシー・アフレックの、心のどこかにもやもやした不安をかかえたような、あのいつもの表情があらわれて、彼の家族の様子が映し出されて、すべての役者が揃って、物語の厚みががっつりと仕立て上げられて、もうこれは期待をもたせずにはいられない展開だなと、たいへんよろこばしい思いに浸りつつ、文字通り画面に釘付けな感じだった。

監督のデヴィッド・ロウリーの持ち味というか、独特なダルさ、アンニュイさ、ねっとりと絡みつくような演出のテンポは本作にも感じられるのだが、しかしどの場面がとかどの下りがとかは示しづらい。作家性みたいなものを上手く言葉にしづらい、でもそれとはっきりわかる感じはある。あいかわらずの感触だなと。

筋書的には「追い詰められていく銀行強盗」パターンと「自由に生きたい男」パターン(最後、馬に乗るし…。)へ向かって進まざるを得ない側面において、どうしても前半部での期待がそのまま維持されはしない…のだけど、それでも単純な悲劇とかアクション構図へはおさめずに、最初から最後までゆったり、余裕で物語を進めていく感じは、やはりすごくいい。シシー・スペイセクが一貫してすばらしいのだが、映画でこういう老人カップルが魅力的であること自体がよろこばしく、中年夫婦ケイシー・アフレックと奥さんとの対比も気にならない程度に効いていて。あと舞台設定は1981年であることの絶妙さ。何が絶妙かはよくわからないが、こうロバート・レッドフォードの犯罪の手口に、警察側の捜査に使われる技術や方法の微妙な古さが、ああ、これは時間かかりそうだわと思わせる、今とは違う感覚だろうなと思わせる感じとか、上手くできてると思うし、それなのに後半、シレっと時代に関係ないThe kinksの"lola"を鳴り響かせるのも、すばらしい("lola"なんて何十年ぶりかに聴いた。映画を観てるあいだは、聴いたことあるのに誰の曲だか思い出せない病にやや苦しむ…)。サクッと90分で終わるし。こういう映画を、ひたすらたくさん観たいわ……と思わせてくれる、久々の満足感。