はにわ


薄暗い廊下の突き当たりに向かって歩いていて、向こうに何か、ぼんやりと誰かが居るなあと思ったら、どうやら女性のようで、単にその場に立ち尽くしているような様子だった。まっすぐに立っていて、真正面からまともにこちらを見返しているのが、近づくにしたがってはっきりとわかった。なんだろう、何事だろうと思って、さらに近づいていったら、その女性の長い黒髪がさらさらと風にゆれていて、その女性の顔は、はにわの顔だった。


あれ、うわ、はにわじゃん、と思った。すごく、はにわな顔のまま、ものも言わず、その落ち窪んだ目でこちらを見ている。はにわの目の空洞ってすごいなあ、と思った。


とりあえず、どうしようもないので、ひとまず踵を返し、もと来た道を、折り返して歩き始めた。そうしたら、その廊下の反対側の突き当りにも、やはり女性がいるようなのだった。いずれにせよ、挟まれているのだと理解した。たぶんあっちの女性の顔も、はにわなのではないだろうか。それを確かめる気持ちには、とてもなれないけど。


突如として、恐怖に囚われたので、仕方が無いのでとりあえず「うわーーーー」と叫んだ。そしたら妻が「寝ぼけないでよ」と言って僕を起こした。僕はたまに、そうやって叫ぶので、そういうのはさほど珍しい事ではないのだが。