Amazon Primeで、セリーヌ・シアマ「秘密の森の、その向こう」(2021年)を観る。始まって、粛々と進む場面を見ながら、そうか、亡くなったのは一番最初にいた、あのお婆さんか、と。ある終焉の感じ、物憂げでくたびれたような、気の抜けたような雰囲気が、家の中に漂ってる。季節は秋か。見事な紅葉につつまれた森の中を、八歳の娘ネリー(ジョセフィーヌ・サンス)を後ろに乗せて、母親マリオン(ニナ・ミュリス)が、己憂げな表情で車を走らせる。ネリーは後ろからお菓子だのジュースだのを母親の口元へ運ぶ。母は黙ったままそれを口にする。

あの家を、引き払わなければならないのだ、ずいぶん意気消沈してしまってるお母さんと、カラ元気を出すお父さんがいて、八歳の娘がいる。お父さんが食器棚だか冷蔵庫だかをズルズル移動させると、後ろから昔の壁紙が出てくる。おぼえてる?もう忘れたでしょ、お父さんは昔、森の中に作った小屋のことも忘れてるでしょ、と。

「編集」というものが感じさせてくれる小気味よさだなと思う。淡々と、必要最小限の説明だけで、話が進んでいく。

その後、母が突然失踪してしまい、ネリーは森の中で、同じ年頃の少女と出会い、二人は友達になる。彼女の家へ訪れて、その家のダイニングには古い壁紙がまだ現役で貼られていて、廊下の突き当たりにあるトイレをのぞいて、ネリーはここが、かつての我が家だと知る。おそらく少女は幼い頃の、ネリーの母マリオンであり、左手の部屋には、まだ祖母が生きていて、こちらに背中を向けて眠っている。

父親は着々と家を引き払う準備を進める。ネリーはマリオンと一緒に、招待されたから彼女の家に一泊したいと父に懇願する。父は娘の言い分を聞き入れる。父とハグするネリー。それを見つめるマリオンは、ありがとうと小さく口にする。まるで夫に語り掛ける妻のようなさりげなさで。

ひとつのベッドで眠って朝を迎えた二人は、ゴムボートで湖へ漕ぎ出し、その後別れを告げる。一人で家に帰ってきたネリーは、薄暗くて何もない部屋でじっとうずくまっている母親の姿を見出す。ネリーは母親と抱き合い「マリオン」と、その名を呼ぶ。

しみじみと良い話だった。この、現実にはありえない一連の出来事は、母親の失踪と帰還に挟まれていて、どことなくこの作品のすべてが、母親の頭の中の世界だったように、そう思いたくなるような感触をたたえて、静かに幕を閉じる。

大人の事情、大人の悩みは、本作ではすべて内実を隠されている。お父さんの不思議にやさしい笑顔や仕草の裏側に、それはきっとあるのだろうけど、子供には見えなくて、せいぜいお父さんの髭剃りのお手伝いをするくらいだ。

子供時代のマリオンの態度、彼女だって何も知らない。でも子供時代のマリオンは、母親を亡くした自分自身の過去へと向かう想像の産物だとしたら。

子役の二人は、ああ、いかにも八歳児だなあ…という感じだった。このくらいの子供特有の、無表情というか、ぶっきらぼうというか、何も語ってない、無機質な視線。子供って、こういう表情、こういう眼で、何かを見るよね…という感じ。