一日のうちで眠ることの快楽をいちばん感じるタイミングが、朝の通勤電車の中というのは、かなりお粗末というか、そんな不幸な人生を送ってる勤め人、さすがにみじめじゃないかと思いもするのだけど、しかしあの座席に座ってかすかな振動に揺られているうちに、うつむいた先の視界がぼやけ、あらゆる意識のうごめきが、睡魔の巨大な砂塵に埋もれていく瞬間の、もうなりふりかまわず、何もかもを捨ててしまえる、そのままなしくずし的に、沈みきってしまうことだけを望む、ほんとうに開き直ったようなあの感覚は、なかなかのものなのだ。もしかして来たるべき死の瞬間が、あのような、すべてを手放すことの愉悦をともなうようなものであったならと、想像しないでもない。