古い服を捨てる。主にワイシャツが多い。けっこう思い切って捨てたので、クローゼット内に余裕が出た。そのまま、ついでに部屋の掃除を始めてしまう。その瞬間だけは、たたかいのように、徹底的にやる。ただしあらかじめ決めておいた箇所だけにとどめる。それ以上やると収集がつかなくなる。行為の意味を突き詰めることが必ずしも最善ではない。ほどほどにしておくのも大切。みんなが幸せになるために。そのあと、洗面所の水道の蛇口から水がぽたぽたと洩れてしまうのを一ヶ月くらい放っておいたのを、せっかくなので修理に取り組む。元栓を締めて、ドライバーでノブを外し、内側の金属部分を外して、中に納まっているゴムが付いた節水コマを取り替えます。もう今まで何度も調べたり器具を買ったりして経験を積んでいるので、手順はけっこうおぼえている。


しかし、上手くいかない。やり方は問題ないはずなのに、まだ洩れる。なぜなのか、わからない。何度か試したけど、最初よりむしろ悪化した感じである。仕方がないので、修理業者に電話したら、すぐに来てくれたが、今までのいきさつを話したら、えー!?そこまでやってもダメなんですか??と驚かれる。あー業者さんも同じ作業を想定して来たのかあ、と思って、やや期待の気持ちがかげる。


しかし5分もしないうちに、完了したというから見てみたら、確かに漏れが止まっている。どこが悪かったのか聞いたら、いやあ、ふつうにコマを取り替えただけなんですけどねえ、と。…ってことはつまり、やはり、僕のねじの閉めかたとかが悪かったってことですかね?と聞いたらら、いやあ、そんなことなかったですよ?ちゃんと締まってましたけど、なんでダメだったんでしょうね?コマのかたちかな?前に入ってたのと同じ形のを入れてみたら、一応ちゃんと洩れなくなりましたからね?でもさっき入れたやつのほうが、安いコマなんですけどね。でもお客さんこんなにたくさん、コマ買ったんですね。もったいないですから、また洩れるようになったら呼んで下さいね、これみんな、使わないともったいないですからね!じゃあどうもすいません、こちらにサインお願いします、と言って、業者は去っていった。…直って良かったけど、どうにも釈然としない気持ちが残る。


いつもの休日のとおり、夕方から早々と食事をはじめて、なぜか「アルプスの少女ハイジ」が、何時間もかけて延々放送していて、何となく見てただけなのに、なぜかこちらも意地になり、とにかくクララが立つまでは見ようということになってしまう。で、まあ最終的には、たぶん六時過ぎにはクララが歩いたのだが、その前に驚いたことがあって、ハイジとクララとペーターが遊んでいたら、突然夕立に襲われるシーンがあるのだが、ハイジかクララが「わー!雨だ!」と言ったら、それを見ている我々の部屋の外が、パッとカメラのフラッシュが焚かれたように光って、雷の音がとどろき、やがて外の世界に、激しい雨が降り出したのである。今年はじめてみる夕立。季節がはっきりと変わったのだと思った。


驚くべきことがもうひとつあった。ハイジたちが雨宿りをしていて、やがて雨が上がり、おじいさん達が助けに来て、でもすっかり空は晴れて、ああ良かったとなったとき、出し抜けにクララが「あ、見て!虹よ!」と叫んだ。空に虹が出ているシーンを見ながら、僕らも思わず窓の外をみたら、なんと信じがたいことに、まさに窓の外の、下から左上にかけて、きれいな円弧を描いて虹が出ていた。クララ!なんでわかるのか?と問うも、返事はない。


クララは立ち上がってから歩くまではしばらくかかるのだが、立つと、ハイジよりもペーターよりも背が大きく、身体も大柄である。


クララもきっとこれから、別の人生がはじまる。もうハイジやペーターとも、会う機会は少なくなり、やがてお互いを忘れることだろう。そして幾年もの年月がながれ、アルプスのことは、いつかどこかの、ぼんやりとした淡い夢のような記憶へとかわることだろう。