この靴


これはさすがに、年貢の納め時じゃないか。去年ソールを完全交換したので下半分は完璧なのに、上半分の劣化が甚だしく、足の甲の丁度小指と薬指の付け根あたりの位置から、ざっくりと皮が裂けてしまっていて、それをたしか去年の秋頃に皮用ボンドで貼り付けて補修したのだが、再びそれが傷口を開き始めてる。あと紐が…まあ、靴紐がダメになるなんてよくあることなので、買い替えれば良いだけなのだが、それにしても靴紐がこんな状態になるのを初めて見た。外側の布がずるずると剥けてしまって中の細い芯のような部分とのでこぼこした隆起を為していて、これはもう、紐として担うべき負荷に耐えられなかったとかではなく、ただ存在するだけで何年もの間少しずつ重力のように受け続けた別の負荷によってじょじょに靴紐ではない何かに物質変化してしまったようにさえ見えて、とにかくもう、この靴がもはや全体的に、大いに大変な感じがする。これは単に老化であって原因を追究したり補修を試みたりすべきではないのではないかと。このままそっと安らかな場所に置き去るべきでは、などと思ったが、ふいに別のイメージが沸き起こり、いや実は意外と、僕はこの靴を、今後もこのまま履き続けるのではないか。ボロイ靴で傍から見てみっともないとか何とか自覚しながらも、今年来年も、いやもしかすると、このまま50代になっても60代になっても、ひたすらずっと履き続けてる可能性すらあるのではないか。実は意外に、ここからの踏ん張りがものすごい靴である可能性もゼロとは言えまい。ひとまず再補修して様子見するべきだと。