川沿い


子供の頃、マーちゃんとかっちゃんと僕でよく遊んだ。しかし三人で遊んでいるというよりも、いつもマーちゃんと僕が二人で遊んでいるのを、かっちゃんが見ているという感じだった。かっちゃんはものすごく臆病で、どんな遊びのときでも、不安そうに眉間のあたりに皺を寄せて、少し離れた場所からマーちゃんと僕の様子を伺うだけだった。大人が近くを通りかかっただけで激しく怯えて狼狽し、マーちゃんと僕に、まずいよ誰か来たよ来たから逃げようよ逃げようよと只事ではない勢いで激しく訴えかけるのだ。そしてその場で顔を歪めて泣くのだ。花火や爆竹などの大きな音の出るものも大の苦手で、火を付けてから大きな音が出るまでの数秒間はもう、この世の終りが来るみたいな感じで地面にうずくまって両耳を両手で必死にふさぎ、目を硬く瞑って歯を食いしばったまま、その音が鳴る瞬間の恐怖をひたすら耐えるのだ。僕はかっちゃんのそういう姿を見るといつも憂鬱さにつつまれて気が滅入った。


かっちゃんはそんな風に極度の臆病だったので、やがて僕やマーちゃんとは遊ばなくなってしまった。それからは、僕とマーちゃんとの二人でよく遊んだ。いつも川沿いに行った。薄曇りの灰色の空の下、川沿いの道の両脇は乾いた狐色のススキが生い茂っていて、茂みの奥に入ると雨でグズグズに崩れかけた大量のエロ本がかたまって置かれているのをよく見つけた。真っ白い肌のあられもない格好の裸の女の、雨の染みと紙の劣化にまみれて酷い匂いを発するページを指でつまんでめくると、次のページのほとんどの部位に蛆虫がびっしりとくっついていて、飛び上がって逃げたりした。


川の水面はいつも、限りなく黒に近いグレーで、水の流れる音がしていた。石に貼り付いた苔の色が少し緑色で、景色の中で色といったら、その苔の緑色とたまに捨てられているジュースの空き缶の表面に印刷されたすでにずいぶん汚れて錆びているパッケージの色くらいしかなかった。僕とマーちゃんは大体いつも、酷い泥濘の道を飛沫を跳ね上げながら自転車で走った。泥濘を自転車で走るのが好きだった。どれほど酷い泥濘でも自転車なら走っていけた。足元は汚れていないのに、乗っている自転車が猛烈に汚れて泥だらけになって、フェンダーの部分やチェーンやペダルの中心部位あたりまで完全に泥に染まった。自転車の下半分がほぼ完全に泥まみれになるほど汚れると、僕はいつもかすかに満足感を感じた。


古い車の残骸が雨ざらしのまま積み上げられている廃車置場まで行って、落ちているものを物色したりしていたが、しかしロクなものはなかった。実は目当てのものがあって、それは自転車の部品だった。マーちゃんは以前、この場所に積み重ねられてスクラップ同然の自転車の部品をひとつひとつ取っていき、それらを少しずつ組み合わせていって、最終的に一台の新しい自転車をまるごと作ってしまったのだ。そしてマーちゃんはその後しばらく、その自家製自転車に乗っていた。僕はその自転車に激しく惹かれた。あまりにもカッコよかった。その外観の、完全な寄せ集めの組み合わせという感触に、言葉にならないほどの興奮を感じた。僕もぜひああいうのを作りたいと思って、部品すべてを採取できなくても、一部が欠落していても、全然かまわないから、とにかく集めて組み合わせれば、自転車なので、自転車らしき何かになるはずなので、その事実にひたすら興奮させられていた。


しかしある日、僕が泥まみれのサドルやフレーム部分などを物色している間、マーちゃんが急に、あ。さべー、さべーーよさべーーよ。と言い出した。何かと思ったら、大人のおじさんが、こちらに向かって一直線に歩いてきたのだ。僕はその場に立って、しばらくじっとしていた。マーちゃんも逃げずにそこにいた。おい何やってんだよ、と言われて、自転車の部品がほしいんですけど、と多分、僕が言った。これダメだよ、もってっちゃダメなんだよ。おまえらこれ触っちゃダメなんだよ、といわれて、どうもすいませんといって、そのまま自転車にまたがって、そのおじさんに背を向け、僕とマーちゃんはそのまま自転車を漕いで再び泥濘の川沿いを二人で走った。しばらく無言のまま、自転車のペダルを漕ぎ続けていたのだが、しばらくしてから、あいつうるせーんだよ、とマーちゃんが言った。僕は、これで自分の改造自転車のことは、あきらめるしかないと思った。


マーちゃんとはその後もよく遊んだ。よく釣りをした。ヤマベとかフナとかを釣った。