北千住二度目


2時間半は短い。倉持や雨本は、ちょっと時間を持て余したけど、それ以外のメンバーは終始無言で、凄い集中力だった。描いてる間は時間の経つのが早かったと皆が感じたらしい。


さっきからずっと見続けているが、見ても見ても、やはり三十分か一時間か、そのくらいも経たなければ、結局は何も見えないものだ。花や葉や茎の複雑な折り重なりあいをいくら見ても、最初はそれらをそれらとして見ることができない。漠然とした全部が塊として見えるだけで、それに対して探り探り手を動かし始めて、モチーフと、それを見る自分と、自分の手と、紙にあらわれてくる結果とを、面倒くさがらずに一つ一つ、最初の三十分で見渡して、読んでる自分の今日の体調というか、今日の相場、空模様、みたいな自分の中のコンディションを大体把握する。そこからやっと紙に描き始めて、その日にできること、その日に挑戦できそうなこと、やめといた方がいいことなどの、おおまかな判断をする。江頭なんかは、上手い絵を描きたいという。自分で、上手いとイメージを目指すことができるまで、学びたいのだと。今は目指してないが、知識はある。目指したい自分のイメージが自分の中にある。


花を描いていた南さんが「あ!花が開いてきた。」と言って、皆が「あ、ほんとだ。」と言って、花のすぐちかくでそのオレンジ色の花弁をしげしげと見た。花弁はたしかに、さっきよりもはっきりと開いていた。おそらく部屋が暖かいからだろう。というか、そうやってみんなのみている前で、その花は眼に見えるような速度で、なおも徐々に徐々に開いてる真っ最中なのだ。何か薄気味悪さすら漂っていた。「ちょっと!絵描いてるんだから動かないで!って言ってみたら?」と言って笑った。「そう言ってもしもピタッと停止されたらそれはそれで困るよね。」「言葉がわかるの?」