センチメートル


 ぐいぐいと歩いて駅へと急ぐ朝。

 電車も走る。停止信号で止まると運転手が心からすまなそうな声で乗客たちに詫びる。お急ぎのところ、ほんとうにすいません、ほんとうにすいません。誰も何も言わない。ただじっとその場に立ち尽して、電車が動く気配に全神経を集中している。乗客全員の心を一つにして電車が動いているのかもしれない。すーーっと空気の抜ける音がして、何かモーターのようなものが回り始める甲高い音が遠くに聴こえる。やがて乗客を乗せた箱が揺らぎながら再び動き始める。

 缶ビールの、ビールの缶(500ml)は、すっと円筒形のかたちを保っている。空間に対して真っ直ぐに立っている。人は誰でもまず、目の前のモノがそれでかたちを保っていることに驚く。その驚きから計測も生まれたはずだ。驚きを腑分けして、分割して分析するために。

 目で見て、直感で言う。高さ20cmである。たぶん正確にはそうではないと思う。だいたい…25cmくらいか。まさか、30cmということはないだろう。

 高校生くらいのとき、こういう話をするとすぐに「お前はデッサン力がない」とか、すぐデッサン力の話にしたがるヤツがいて困った。ものの大きさを正確に当てるとか、長いものの真ん中をぴたりと当てるとか、そういう能力がデッサン力ということになっていたのだ。

 しかしだからといって、ビールの缶(500ml)は高さで言うと大体10cmくらいだよね?とかもしそう思って言うなら、それはそれで、やはり若干困る。

 何センチが妥当なのか?

 「えぇと、20cmくらいだと思います。すいません、計ったこと無いんですけど」

 「あ、はい。缶ですよね。…18cmくらいか、いやもうちょっと、25cmくらい…じゃないかと、思うんですけど。」

 最も好ましいのは、25cmくらいか。皆さんは如何ですか?高さの希望はどうしても外部の条件によって決められてしまうが、何の制約もないところで自分好みの高さを意識するのは、とてもよいメンタルリラックス&トレーニングになります。30cmくらいがいいとか、45cmとか、純粋に抽象的に、自分好みの長さ、というか、このみの、カタマリのスケールを、イメージしてみてください。どうですか。大体どのくらいの大きさですか。

 だいたい、25cmくらい。ちょうど缶ビールの、ビールの缶(500ml)くらいの大きさですかね、だいたい、あんな感じです。