寒さが容赦ない。横断歩道の前で立ち止まっていると、風に吹かれている身体の半分が消えて無くなってしまったような感覚をおぼえる。前を歩いているサラリーマンや高校生や若い女性の後を自分が歩いている。それぞれ数メートルの間隔を空けて、その間隔を保ったまま、皆が同じ方向へ歩いている。寒いので、皆がやや前屈みで肩をすぼめていて、同じ気持ちのまま、今だけ同じ目的に向かっている。もしかしたらこれは、実は薄い氷の上を、それぞれが無意識のうちに超絶的なテクニックを駆使して、こうして何事もないかのように整然と歩いているのかもしれない。見下ろすと、足の下には空が広がっていて、マイナス何十℃の冷気が白濁した潮のように流れているのが見える。