三津木局長は新しくよそってもらったご飯にウズラをのせ、惜しみ惜しみちびちびと食べている。ウズラを焼いた濃いタレを御飯にまぶして、何もいわないが、はたから見ても見とれたくなるような食べかたで無心に食べている。おそらくそれはこの人の天性の資質かもしれない。上品に礼式にかなった食べかたは訓練でできるけれど、上手に、おいしそうに、見ていてツバがわくような食べかたは誰にでもできることではあるまいと思われる。それはなかなか気のつかないことだけれど、むつかしいことである。ほんとにむつかしいことである。
 ときたま、ほんのときたま、小さな子供が、誰に教えられたというわけでもなさそうなのに、いかにも上手にものを食べているのを見かけることがあるが、ハッとさせられる。ハナたれ小僧が、貴人のように見える。その逆もまた、いやこちらのほうがはるかに多いことだが、教養もあり、フトコロもゆたかそうで、挙措ことごとく礼式にかなっているのに、じつにまずそうに、いやしそうに食べているのを見かけることがあるが、一目見て眼をそむけたくなってくる。二度と眼をもどしたくなくなる。賎民である。ローデンストックの眼鏡とデュポンのライターが主人を呪って手をとりあって泣く。

「新しい天体」 開高健