なつかしい


「あること」がなつかしいと思うとき、そのときなつかしいのは、その「あること」自体に対してではなくて、そのことに取り組んでいる当時の自分の構えというか、そのときの自分の感覚がなつかしいのではないか。なつかしいのは結局のところ、すでに他人のようでしかないかつての自分に対してではないか。だから、その頃に戻りたいとか、あの頃の方が良かったとか、じつはそういう話でもなくて、単に過去というもうひとつの現実が現在に、ふいに妙にリアルに、甦ってきているだけなのではないか。そして年を取るとその現象の発生度合いがやや頻繁になるということではないか。