修理屋哀歌(System Engineer's Elegy)


こいつをもう一度、マトモに動かすように修理するならまず、オレがこの「仕掛け」を作った連中と同レベルまで全体を理解した上で、じゃあ一体どこが駄目なのか?何が問題なのか?についてざっくり把握するってトコロから始めるだろうネ。


やがて原因や問題点が大体特定できたとしても、慌ててすぐに手を付ける事なんて事はせず、これからオレがやる事が「仕掛け」全体にどんな影響を与えるのか?もしかしてそれに触った途端、想定外の副作用を引き起こすような可能性は無いのか?なんて所まで色々想像を広げつつ考えとかないと、完全とは云えねえのさ。


油断して少しでも間違ったりすると、改悪や二次障害を引き起こす事にもなり兼ねねえ。これなら触らない方がマシだったとか藪を突付いて蛇を出しやがってとか、後になってグダグダ云われたくないからな。場合に拠っちゃあ結果に対して賠償責任まで背負わされるおそれさえゼロじゃねえ。どうでもいいような細けえ事に一々拘るオヤジとかも居るからな。だからオレは自慢じゃないけど本当に細心の注意を払って仕事してるんだよ。もう分かり切った事でも、どんな細かい話でも、何度でも目視・指差し確認をやって、うっかり間違いとかそういう誤謬の芽を、完全に摘んで根絶やしにしてやる位の勢いで作業してるのさ。。


…しかし、それにしてもまったく、余計な気ばかり遣ってくたびれるし足腰も痛てえし、その割に報酬も安いとくれば、なんでこんな仕事やってるんだ?ってなもんだな!!まったくやってられないよ。一体誰が好き好んでやるんだ?こんな仕事。


そもそも、こんな「仕掛け」を最初に作ったのは誰だ?っていう話じゃねえか。マトモじゃねえ設計しやがってさ。そうだろ?それだけじゃねえよ。こんなロクでもないブツが、以前からこうしてずっと動き続けてきた事に対して、今更ギャアギャア騒ぎ始めるバカもいてさ。過去に遡って管理責任とか何とかを調べてどうこうとか、訳のわからねえめんどくせえ話までなぜかオレに全部押し付けらるみたいな雲行きでさ。…そういうのも、何もかももううんざりなんだよ。


いや、オレだって皆と同じように、今までずっと、その「仕掛け」がこの世で動作してる事の恩恵を受けてきた。それはそうだよ。しかし、今だから云えるが、そういう恩恵ほど気づきにくいものはないよな。何しろオレたち位のヤツラが生まれる遥か前から、ずっと動いてた「仕掛け」だからな。むしろここに来て、まったくおぼえの無い今までのツケをいきなり請求されて問答無用で一気に支払わされてるような、唖然とするしかない気分でいるってのが正直なところだ。お前さんだってそうだろ?


構造改革とか再編とかいうけどつまり、そういうツケをここでまとめて払ってくれ、嫌でも働いてくれ、色々痛みを引き受けてくれってんだろ?もうどこかで一挙にやらないと駄目なんだから、間に合わねえんだから、もうしょうがないから今生きてる俺らでやろうよ、って事だろ?違うか?


まあそれはそれでいいけどさ。でも例えばさ、ゼロからモノを作る。っていう事の難しさがあるけど、それはすごく遣り甲斐のある仕事だよ。人間として生まれてきて、一生涯のうちでゼロの状態から何かひとつでもモノを作って完成させたらすげえ事だろ?本人だって最高の気分で酒が飲めるってもんだ。でもそれとは別に、既に在るモノとか誰かの手によって作られて今までずっと稼動してきた「仕掛け」が徐々に駄目になってきて、不具合を起こし始めた為に、それを直して復旧させる、っていう事の難しさもあるんだけれど、そういう仕事に関わり続けるのも、勿論すげえ事だよ。それだって素晴らしい事に違いないさ。


しかしな…。遣り甲斐とかの話は置いといて、今の世の中、今を生きてる俺達の大多数が、ずっと稼動してきた「仕掛け」の不具合だとか綻びの面倒を見なけりゃならないっていうのは、ほぼ決定!って感じがするよな。なぜなら俺達は既に、もう把握できねえくらい沢山のシステム上にしか存在できないような有様だからな。だから今まで実現されて来た成果を、一個も無駄にする事なく、さらに新たな価値を得るためには、やっぱ既存システムの再編成が不可欠で、オレも含めたほとんどの連中がその作業にかかずらう事になるのさ。まあしょうがないよ。