「卍」


[DVD]


薄暗くて全容のよくわからない空間で、如何にもな感じのおっさんの前で、岸田今日子が起こったこと全てを告白する。という回想形式で映画が進む。暗い空間の中に岸田の着ている着物の柄とか髪の色が浮かび上がっており重厚な感じが充溢している。


まず岸田今日子という女優の顔と、若尾文子という女優の顔を並べたときの「違い」が素晴らしい。若尾文子は美貌もさることながら、着ているワンピースの鮮やかさや、その下に包まれている肢体の重々しい密度の感じの艶かしさも良い。最初に、若尾と岸田が共に互いの裸身を晒しあうところが最も官能度高し。時に岸田のはしゃぎ方、取り乱し方が良い。


その後も婚約者である綿貫の常軌を逸してる感じの態度ややけに軽薄な軽口とかやたら誓約書とか血判に拘るところとかも面白い。…まあでも後半の、嫉妬とか不安とかで関係者一同の相互疑心暗鬼・監視状態が駆動しはじめたあたりからさすがにちょっと観てて飽きてきた。


なにしろ始終延々、全ての人物が、貪り合うか嫉妬や不安でヒステリーを起こしてるか歓喜の叫びを上げているか、という様相を呈しているため結構うんざりしてくるのだが、しかしセリフが大阪弁である事で多少救われている。淡々と発せられる大阪弁だけが可能な、ある距離感というか柔らかさで、正直飽きちゃってもうあんまり興味も持てないような展開だけどかろうじて見ていられる。…以前みた増村保蔵「好色一代男」の市川雷蔵大阪弁も非常に柔らかくてリズムもテンポも良く、あれもほとんどそれを聞いてるだけみたいな映画であったが。