「LIFE-fluid,invisible,inaudible....」坂本龍一+高谷史郎


新宿ICCにて表題のインスタレーションを観た。(Website)これはとても素晴らしい、と云うしかないだろう。…会場に入って暗幕の向こうに展開している空間を見て、思わずはっとするようなキレイさだ。


水らしき液体の張られた四角い底の浅い水槽が3×3でグリッド状に、床から高さ3〜4メートルくらいの中空に等間隔で並んで吊るされており、上空からそれぞれの水面にプロジェクターで光(映像)が投射されていて、その光は水槽を通り抜け、水槽の矩形のかたちで床面に淡い複雑な投影の図を落としている。床面に注いでいる光を観客が日光浴するかのような格好で仰向けに寝そべって、上空の水槽底面に映るイメージをじっと凝視している。


とりあえず吊るされている水槽とその中の液体の様子が大変美しいので、その様子を延々見てしまう。水が張られた水槽の底に合計8つの扇動機器が取り付けられており、それが細かく水に波紋を生じさせる。また水の表面には、人工的に作られているらしい霧がうっすら立ち込めており、ドライアイスが極めてゆっくり揮発していくようなゆったりとした白い不透明さを醸し出しており、それが更にプロジェクターからの光を受ける事で輝くような白い有機体の様相でうっすらと動いている。


この、吊り下げられて中空に浮かんでいる水槽の使い方が実に素晴らしくて、シンプルなスチールのフレームを組み合わせて構成された高さの浅い立方体の底面は下から見上げて鑑賞するための、プロジェクターの映像と波紋に翻弄され不安定に揺らぐ水面のとの混合イメージを展開させるスクリーンとして機能するのだが、側面部分は張られた水の喫水線が見え、底で作動している波紋生成機械の演出がこれ見よがしに確認でき、人の汗のような早朝の露のような細かな水滴がガラス面にびっしり付着しているのが見えると同時に、極めて制限された角度でたゆたう霧の白いゆらめきを見つめる事ができる隙間でもあり、ときには上空からの大胆な光の投射を受けて水槽ごと青や白色に輝くための発光領域でもあるのだ。ちょっと驚くほどの美しさ。…それぞれの水槽の両脇にはスピーカーが吊るされており、サラウンド的な音響で音と映像の緩やかなたゆたいが延々続く。…飽きもせず相当長い時間観ていた。これは相当に高度なものだと思った。


この作品の場合「体験する」と「体験している人を観る」がどちらも「鑑賞」の中に組み込まれているのが面白い。あの光を浴びて良い気分にもなれるし、あの光を浴びて良い気分になっている人の姿を見て良い気分にもなれるのだ。(それに気付くと、なんか気恥ずかしくて、作品の中に入っていく気持ちが萎えるのだが)…まあ、それが何となく反発心として心に生じてしまうと、人々があのように並んでごろ寝している光景が思わずサウナとか健康ランドとかカプセルホテルのロビーとかの仮眠室の雰囲気を思い出してしまったりもしたが。膝をたてたり伸ばしたり寝返りうったりふいにむっくり上半身を起こしたり…そういう仮眠室のまったく冴えない深夜の空気。


…前述と全く無関係な話だが、最近再結成したYMOの3人のインタビューだかドキュメントだか何か(YMOじゃなくて加藤和彦だったかもしれない。まあどちらでも大差ないだろう)をこの前たまたまテレビでやってたのだが、非常にキモイ内容だったので慌てて消した。あれくらいの年齢のおじさんがさも満足そうな顔で「いやあ…周りが勝手に盛り上がってるからなぜかやる事になっちゃって」とかいって「しょうがないよね、はいはい」みたいな感じで、とりあえずまんざらでもない表情で居るのを見てると、何か妙にいたたまれないというかこっちが恥ずかしくなってしまうような気分にさせられるのだった。やっぱいい年こいてもまだまだ世の中に未練もあるし金もほしいし尊敬されてチヤホヤされたいし女ともやりたいのだろう、というのが良く判る感じ。いや、それは云いすぎだが。