「たまもの」


たまもの [DVD]


冒頭で、割と格好良い投球フォームでボーリングをしてい林由美香の如何にも上級者っぽく投げた後の、レーン上で足を交差させたまま体を停止させて真剣な眼差しの視線の先がピンに向かっていくボールを追いかけているのだが、結局倒れたピンが一番端のやつ一本だけだったのには「…なんだよ」と思って笑ってしまった。…あるいは二人で海に来て、打ち寄せる波を見ていつものように甘えて男に後ろからがーっと抱きついて、ちょっとー重いって!とか云われて振り捨てられて砂にぼてっと落ちるところなんかもやや笑えた。


しかしこの林由美香という女性の、ざっくりと垂れ下がる少し茶色の長い髪や、デニム地のスカートやダウンジャケットが、痩せた体躯の表面に引っ掛けられてかすかに浮き上がって乗っかっているだけに見えるような人間の肉体の貧しい感触が、冬の海辺の寒そうな感じと混ざり合うようだ。映画の最期だけは少し時間がたって、季節が夏になってるが、全然暑そうな感じがしない。。また弁当を作るときに甲斐甲斐しく動いている手の、爪のかたちもきれいに整えられた指先や手の甲の筋張った感じが、林由美香という人のかもし出しているイメージ全体と微かにそぐわないような硬質な感じにも見えて、手というものは本当に、それだけで何か強い意味を感じさせるものだと思った。というか、あの手が何かを作っている事が直接カメラで指し示されるとき、はじめてその女性の存在自体の、逃れがたいような重みが感じられるように思った。


実際、まさに絵に描いたような「愛情のこもったお弁当」がこの映画には出てくるのだし、男に振られて寂しげな「可哀想な女の子」も、この映画には出てくるのだが、しかしそういうのを平気で撮ってしまってなおかつ平然と独自の質を保持しており、救いようの無い場所には決して落ちない事は、やはりすごい事だ。あと結構、ビデオ特有の画質の悪さとかがものすごいのだが、それが悪い訳ではなくて、しっかりこの映画の印象の一部に食い込んでいて、質感の一部になっていると思う。もちろんそれが「狙われている」訳でもないのだろうし、もっと画質が良ければそれに越したことはないのだろうけど、しかしそれはそれだ。