朝、外に出て歩き始めると11月の朝の空気が不思議なくらい快適


夜のあいだ、ゆっくりと冷却されていた空気が、やっと朝を向かえて、太陽の透明な光を受けはじめて既に数時間が経過したあたりの空気の状態で、ドアを開けて外気にふれた僕は通常通り歩行を開始しはじめて、そのままぐんぐんと歩いて前方に移動する事で、厚く積み重なって停止したままだった層に突っ込んでいって、そのままおおきく切り裂いていったので、自分の顔や胸や腰にあたる大気は、表面だけは朝の太陽の光のせいでほんのり暖かいのだが、それがこわれて自分の身体に沿って流動する事で、まだ内側に夜の冷たい部分が残っているのがあらわになって、その冷ややかさがまだらに混ざり合いながら僕の肌の表面を流れていくのを感じとりながら歩く。


駅まで歩く途中、近道のために通り抜ける公園の入り口にさしかかったところで、自分の背後に何か近づく気配を感じたと思ったら、すごい勢いで男の乗った自転車が、結構な猛スピードのまま、僕のすぐ脇をすり抜けるようにして走り去っていった。うわっと驚いて、しかしそのまま何事もなかったかのように遠ざかっていく自転車とその男の背中を見ながら、やれやれ、危ないヤローだと思ってややむかついた。そしたら上空で、大きく羽音を響かせながら、たくさんの鳩の群れが、背後から僕の頭上を越えて、皆でさっきの自転車の男を追いかけるかのように羽ばたいて前方方面へ向かって飛んでいった。途中からぐっと高度を下げたその鳩の群れは一瞬、男の姿をところどころ隠すほどだったので、おお、いいぞ!そのままヒッチコックの鳥みたいに、その自転車野郎に襲いかかれ!と思った。


そしたら自転車の男は、自転車に乗ったまま、ハンドルを持っていた右の片腕をすっと脇にまっすぐ水平にのばし、指先をすぼめるような仕草をした。そしてその視線を自分の指先に移したので、横顔が僕からも見えた。それは中東アジア系人種の顔であった。


その男は、水平に保った腕で、指先をしばらくすぼめたり動かしたりしていたが、やがて、そのまま手の位置を元に戻した。…その後、しばらくすると、いやその直後一瞬だったかもしれないが、とにかくその前と後にかすかなブランクがあった後で、その男の動きとは、一見何の関係もないかのような、でも決して無関係ではないのだろうということも同時に確信されるようなタイミングで、さっきの鳩の群れがまた、いきなり活気づいたように騒がしくなり、自転車が走り去ったあとの空間に群れながら舞い降りたり飛び上がったりし始めたのであった。男の乗った自転車はなおも、同じ速度でぐんぐん僕や鳩の群れから遠ざかっていった。