車内


階段を上って、改札を抜けて、一番線ホームへの下りエスカレーターに乗って下がっていくと、徐々にホームが視界に見えはじめて、上り電車が既にホームに停車しているのが見えたので、前に居た女性が小走りになって急いで乗り込もうとするのに従って、僕もその後を追うように小走りになった。そしたら余計に汗が出たのに、乗り込んでドアが閉まって発車した電車内は、あまり冷房が効いておらずとても暑く、どうしてこれほどまでに暑いのかと思って不愉快さと苛立たしさが倍増した。天井のゆっくりと左右に動いている送風口の真下に立って、冷たい風が直に自分の後頭部から首筋にかけてあたるようにして、そのまま硬直したように突っ立っていた。しかし電車内の乗客中で、これほどだらしなくなりふり構わず暑がっているのは、おそらく僕だけのようで、電車は比較的混んでいて、狭い空間の中で、老若男女すべてが、誰も彼も、実に大人しくきちんとしていて、暑さに不平や不満のありそうな者など、僕を除いて一人もいないようであった。