景色を見た


岩本町からとくにあてもなくふらふらと歩いた。あまり歩いたことのない道を歩いているときの、何ともいえないアウェーな気分。その先がどうなっているのか、よくわからないまま、何となく次の角を曲がってみて、その先に広がる風景の意外さにうたれる気分。僕とすれ違って、そのまま行き去ってゆくたくさんの通行人たちは、あの人たちは、ほんとうにそれぞれ、他人同士なのだろうか?ほんとうは、この道を歩く僕以外の人が、全員知り合い同士なんじゃないだろうか?そんな訳はない。しかしおそらく、僕以外はほぼ全員、この道を歩くのがはじめてじゃないのだろう。おそらくほとんどの人が、もう何年もそこに居て、数え切れないくらい何度もそこを今と同じように歩いていて、だから彼らはもはや、普段その場所を歩きながら、目の前の風景や町並みなどまったく見ていないだろう。それが都会の大きな通りのもっとも一般的な歩き方で、何もかも見慣れた状態で自分を自動操縦させながら身体を運ぶことができるのが、都会の道であろう。僕だって自分がよく知っている場所ならそのように見慣れた景色を景色として意識もせずに歩いていて、はじめて歩く人とは全く別の事に感度を向けて歩いているのだろうから、それは当然だ。あたりまえのことだ。というか、はじめての道を歩くから、目の前の風景や町並みが意識にのぼってくるので、逆にそういう歩き方が異様に新鮮で、その独特な寂寞感を久々に味わった。自分で自分を運転するというのは、とても楽しいが、とても孤独な気持ちになるもののようだ。