毎日


歯を磨く。顔を洗う。髭を剃る。洗面所で、蛇口から水が出て、タオルと、歯ブラシと歯磨きと髭剃りをシェービングフォームで。


コーヒーをいれる。新聞を読む。マグカップとコーヒードリッパーと紙フィルターと挽いたコーヒー豆とで。ポストに投函された新聞を取りに外に出たら、気温は暖かくて、よく晴れていて景色が白い。部屋に戻ったら真っ暗な室内。


爪を切る。髪を梳かす。前屈みになって、足の爪を爪切りで切る。爪が爪切りで切られるときのはじけたような乾いた音。両足の爪を切ったので乾いた音が十回か二十回鳴る。そのあと、櫛で髪を梳かす。頭髪が櫛によって整い揃う。前から後ろへ梳かし、後ろから前へ梳かす。耳の上のあたりを、後ろから前へ梳かす。両手でぐしゃぐしゃにして床に髪の毛が落ちるのを拾う。もう一度櫛で梳かす。


靴をワックスで磨く。靴を磨くための用具が収納されている薄汚れた小箱を開けると、ワックス独特の強い匂いがある。古びたシャツを切ったボロ布は、以前も靴を磨いたときの跡が黒々と残っている。黒々としたワックスの黒い色を、裏から人差し指で、靴の表面に強く押し付けて磨いたのだとわかるような指の跡が、布の模様として明確に残っているので、その箇所に黒いワックスを付けて、それを靴に対してまんべんなく沁みこむように、靴の滑らかな側面に沿うように、力強く素早くこすり付けるようにして磨くと、靴は最初のうちはワックスの露骨な光沢に濡れたようになっているが、次第に鈍い光沢へと変わり、それまでとさほど変わりない外見になるまで磨く。


靴紐を編み直す。すべての靴紐の穴から紐を抜き取る。紐はすべての靴紐の穴に縛り付けられていたときの記憶をまだ紐の平常に色濃く残している。というか紐が靴紐の穴を縛り付けていた筈なのでこの言い方はおかしい。というか、紐の方が靴紐の穴よりも強い形状の痕跡を残しているのはおかしい。紐が靴を支えている訳ではなく靴紐の穴に支えられているだけの、靴紐の穴との相互関係でしかないというのが実情だと思い、またその紐を靴紐の穴に通し始めて、最後の穴にくるまで互い違いに紐同士を交差させながらバランス良く根気強く同じ作業を繰り返して靴紐を結び直す。


手を洗うときには水で両手を湿らせたあと、ハンドソープを手に取ってよく手をこすり合わせる。汚れがハンドソープの白い泡と混ざり合って薄く黒ずみ始める事を想像しながら、泡立ちを促進させるように執拗に手をこすり合わせる。ある程度したら、再度蛇口を捻って泡を水で洗い流し、洗浄された手の様子を見て、気になる部位をさらに水で洗って少しこすり、もう一度手を目の前に近づけてよく見る。


風呂に入るときは、蛇口を捻ると水が出て、それがそのうちお湯になる。栓をして、浴槽に蓋をして、迸るお湯に手をあてて温度をみながら、蛇口を慎重に絞るように戻す。程好いと思ったところで蛇口から手を離す。十五分くらいして、浴槽にお湯が充分に溜まったら、風呂の中で本を読むので本を持って、脱衣所にバスタオルがあるか見て、あったので、それから脱衣所で服を脱いで、それから風呂に入る。


風呂から出てからはタオルで身体を拭いて、バスタオルで身体の水分をとる。頭にバスタオルを被せて、その上から両手で頭を押さえつけて乱暴な勢いで両手でタオルをこすり付けるようにして拭く。新しい下着に着替えて、椅子に腰掛けて、しばらくしてからまた着替える。そのあとも色々と…テレビを見たり、音楽を聴いたり、本を読んだり、今読みかけの本を目の前の棚に並べ直したり、出しっぱなしのCDをケースに入れ直したり。