焼け落ちた家


畑の真ん中に唐突に突っ立ったプレハブ小屋があって、入り口から入るといらっしゃいませお二人様ですか、居酒屋か焼肉どちらになさいますかというので、居酒屋とこたえたらではこちらへどうぞと座敷の奥へ通され、グラスの周りからひたすら氷の欠片が滑り落ちていく水みたいな生ビールを飲みながら細かいものを注文して、その後結局やっぱり肉も食いたいということになって肉も頼んでいいと聞いたらかまわないというのでいろいろ頼んだらじゃあまず鉄板に火をつけるからと言ってしゃがんでカチカチと何かをつけて、ガスがぼーっと音を立てて、しばらくすると底のほうが赤く燃えはじめたのでいくつかの肉の断片を置いたら何の音も香りもなく単に肉が焼け始め、それを見守りながら何とはなしにふと窓の外に目をやると畑に囲まれたこのプレハブ小屋から見た外の景色はこれがまさに「まったくなにもない」としか言いようのない風景としてあり、まあ厳密にいうとどんよりとした濃いグレーの空にかすかに浮かび上がるようにして電線の黒い線くらいは見えたが本当にそれくらいしかなくて、いま僕たちはまったく何もない場所にいて、こんなプレハブ小屋の中で、なぜ肉を焼いているのかと思ったが、でもそこには何のもっともらしい理由はなかった。だだっ広い店内はわれわれのほかは誰もおらず、と思ったら、向こうから黄色い歓声があがったと思ったら、いきなりものすごい勢いで子供が5、6人ばたばたばたばたばたと走って来て、各テーブルの周りを追いかけっこをはじめたのを横目に、僕が鉄網の上に乗せたホルモンが次第に表面を沸騰させてグズグズになって油脂が鉄網にこぼれて猛烈に火の手があがり、それは網の上に燃え広がって勢いよく火柱をたちあげ、僕たちはしばらくのあいだ、オレンジ色の炎をただひたすら見つめるだけのようになってしまった。