公衆電話


電車が駅に停車して、たくさんの乗客に押し流されるように僕も下車した。そのままエスカレータで上の階まで上がり、改札を抜けて、あたりを見回して公衆電話を見つけて人の行列から抜け出して、構内の端の方のだだっ広く閑散とした場所の一角にある電話ボックスまで歩いた。重たい受話器を取って、耳にあてて、そのまま肩で受話器を挟んで片手で電話番号の書いたメモを開きもう片方の手でプッシュキーを叩いた。呼び出し音を聴きながら音量を1か2上げた。公衆電話の受話器はでかくてごつくて、本体と受話器をつなぐケーブル部分には、鉄製のガードが巻き付けられていて、これだと相当力を入れてもケーブルが切れたりはしないだろう。相手を呼び出してる間、首で受話器を挟んだまま頭部位置固定で身体の向きを変えて右や左を見回していた。朝のラッシュ時間だが、電車の到着時刻の合間は嘘みたいに閑散とした雰囲気で、底冷えのする寒さが足元のあたりをたゆたっている。そういえば、昨日も公衆電話で何回か電話をかけたのだが、そのときは失敗した。テレフォンカードを持ってないので小銭でかけたのだが、小銭といっても百円硬貨しかなくて、仕方なくそれを投入して番号をキーインしたら、かけ先を間違ってしまい「失礼しました」とか言って電話を切って、そしたら当然ながらそれで百円は終りである。「あ!」と思ったがもう遅い。いや、遅いも何もない。百円入れたらもう、その百円は戻ってこないのだ。それが公衆電話である。なので、こりゃテレフォンカードないと大変だと思ったのだが、テレフォンカードがどこに売ってるのかわからない。見回してみても自販機とかもない。で、仕方なく、構内のコンビニでおそるおそる「テレフォンカードって売ってますかね?」と聞いたら、あっさり売っていた。だから。良かった。でも、カードを入れる紙の包装紙がないとか言って、カードだけあればそんなのいらないのに店員が律儀な人で無茶苦茶探してくれて、棚の奥からやっと出してきた包装紙にカードを入れてくれた。そのせいで5分くらい待たされた。で、とりあえずそれさえあれば公衆電話はちょっと便利である。カードを入れて電話をかけるだけだ。おーテレフォンカードって便利じゃん、とあらためて思った。